《久遠ちゃん!なんで今日応援来てくれなかったのっ》


電話口の向こうから聞こえる渚の若干怒ったような声に、あたしは苦笑して隣で疲れたように眠る春斗を見た。今日は水泳部の大会。応援に行く気はあったし、実際に行きたかったけれど、急な用事が入ってしまったのだから仕方ない。
そう、あまり関わりはなかったけど、親族の不幸があったのだ。葬式だったの、ごめんねと言えば渚は焦ったように「ごめん」を繰り返す。別に渚は悪くないし、バタバタしてて連絡を入れることができなかったあたしが悪いのだ。

昨日の出来事を思い出しながら、結果を聞いてみる。みんな練習がんばってたんだもん、結果が伴わないなんてこと、ないだろう。


《うーん、それがね・・・》


落胆したような声音に、あたしは驚きを隠せなかった。
イルカみたいに泳ぐ遙先輩の姿が、浮かんで消える。

■■□■

喪服を着たまま、手当たりしだいに先輩が行きそうな場所を探した。普段あんなでも、水泳に対する遙先輩の真摯な姿を見てきたんだ。
あたしにできることがあるなら、何かしたい。一緒にサボった屋外プールの入り口は開いていて、一人で泳ぐには広すぎるそこにぷかぷかと遙先輩が浮いている。
こういうときの女の勘って、ほんとにすごいと思う。心配そうな、何かを諦めてるような笑みを零した橘先輩を思い出す。
はじかれたように足が勝手に走り出して、先輩があたしを見て驚いたように目を見開いたとき、あたしの脚は既に空中にあった。

ばしゃん!!

水しぶきが舞う。慌ててあたしに手を伸ばす遙先輩を無視して、その首に巻きつくように両手を交差させた。
久遠、と、あたしの名前を呼ぶ遙先輩の声は、いつもより覇気がない。


「何してるんですか遙先輩」
「なに、って」
「みんな探してますよ。心配したんですからね!」


密着した体から、心臓の鼓動が伝わってくる。
自分が大それたことをしている自覚は、もちろんある。口を挟む権利なんて無いし、でも、がんばってきた彼らを知ってるから、・・・普段はあんなでも、少しくらい手を伸ばしたって、いいじゃないか。

いつもみたいに、背中に遙先輩の腕が回った。
ぎゅっと力が込められて、昨日みたいに肩に額を当てられる。


「・・・・やっぱり久遠は、女神だな」
「通常運転に戻ってくれたようでなによりです」


遙先輩は、こうでなくちゃ。
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