それで、何か話があるの?
女の子らしい喫茶店に入ってコーヒーを頼んださつきちゃんと紅茶を頼んだ私。にこにこしている彼女のそう切り出せば、「あは、やっぱ赤司くんが認めただけではあるね」と彼女はまた笑った。なんだ、赤司ってそんなすごい人なのか。じゃあもしかしてあの人に認められるってのは名誉なことなのか。・・・全然嬉しくない。


「まぁねー。あのバーって男の子ばっかだし!赤司くんももうちょっと女の子増やしてくれたっていいのに」
「さつきちゃん美人でばいんばいんなのに大丈夫なの?」
「あっはは!久遠ちゃんって面白いこと言うんだね!」
「(ナチュラルにスルー)」


運ばれてきたコーヒーと紅茶。さつきちゃんは長くて綺麗な桃色の髪の毛を耳にかけて、コーヒーを一口すすった。ひとつひとつの動作が様になってる。私とは大違いで泣きそうになった。
砂糖をスプーン二杯分入れて、ミルクも入れて、甘党の私好みの味に仕上げる。うん、美味しい。


「ここ、私の行きつけの喫茶なんだー。美味しい?」
「うん、すごく」
「よかった。パフェも頼んどいたから、いっぱい食べてね!」
「ありがとうさつきちゃん」
「・・・お礼を言われる筋合いはないよ」


一瞬悲しそうに笑ったさつきちゃんに、だいたいのことは理解した。言うのも野暮だからお言葉に甘えておくとしよう。
しばらくして運ばれてきたパフェを食べていると、口元に笑みを浮かべたままさつきちゃんが話し出す。


「あんなきーちゃん、初めて見たの」
「うん?」


ぶち切れた黄瀬を思い出す。荷物、どうしたのかな。ちゃんと私の部屋に置いておいてくれたのかな。まぁ、帰ったらお礼を言ってやらんこともない。
スプーンですくったアイスをさつきちゃんの口元に運ぶ。彼女は嬉しそうに笑った。


「事の経緯は聞いてるよ。私が言ってもどうしようもないんだけど・・・それでも言いたくて。ごめんね、久遠ちゃんの自由を奪うような形になっちゃって」


申し訳なさそうに眉尻を下げるさつきちゃん。美人は何をしても美人だ。
大丈夫だよと笑って、私はまたパフェを口に含んだ。そもそも、私だって謝られる筋合いはないのだ。好き好んでるわけでもないけど、あの時赤司に拾われなかったら途方にくれていたことは事実なのだから。・・・私は、こっちの人間ではない。
こんな顔をするさつきちゃんでも、人を殺したりするのかなぁ。そんなことを考えた。

■■□■

「私は任務があるから、ここで。またお喋りしようね!」
「うん、またね」


車の窓から顔を出して、小さく手を振ってくれるさつきちゃんに手を振り替えして発進するそれを見送る。見えなくなるまで見送った後でバーの入り口をくぐれば、えらくけばい女性の相手をしていた氷室さんと目があった。


「楸さん。おかえり」


不意打ちの言葉に何も返せず、数秒固まる。女性の鬱陶しそうな視線をいただいた。
咄嗟に出た言葉は、はい、なんて可愛げのないものだった。
今朝の道のりを頭の中で思い出しながら部屋に戻ろうとすると、「あ、待って」優しい声が背後からかかる。
そろりと振り返れば氷室さんは笑って、ちょいちょいと手招きしてきた。・・・女性の嫉妬心こもった視線がものすごく痛い。


「ごめんね、今日はもう店じまいだ」
「ええ〜!・・・明日は空いてるの?」
「気分かな。さあ、暗くならないうちに帰るんだ」
「辰也、いつもの」
「・・・仕方ないな」


ぐっと顔を近づけていった二人に、思わず目を閉じる。
どれくらいそうしていただろうか。くつくつと喉の奥で笑う氷室さんの声に思わず眉根を寄せながら目を開ければ、「sorry」流暢な英語が返ってきた。罪なお方だ。


「何か用ですか」


思わず低い声が出てしまった。だけど氷室さんは気にした風もなく、ただにこりと笑う。


「片付け、手伝ってくれる?」


柔らかいようで、有無を言わせない口調。・・・はあ、もう、ここの人って結構みんな自己チューだよね。テツヤさんとさつきちゃん以外。
手渡された台拭きで店内のテーブルを拭いて回る。
赤司は君にしかできない仕事をしてもらうって言ってたけど、もしかして雑用じゃないだろうな。いや雑用のほうがいいか。雑用でいいや。もう私このバーで働く!


「思ってたより強かそうな子で安心したよ」
「・・・どういう意味ですか」
「そのままの意味だ。これからよろしくね、久遠ちゃん」


色っぽく名前を呼ばれたって、べつに、心臓とか騒いだりしないし!

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