まぁそうは言っても、と赤司は懐から諭吉さんを何枚か取り出した。ナチュラルに見せ付けてるのか、それとも別に当たり前のことなのか図りかねたからスルーしておこう。もう何もつっこまないぞ。


「これで、服や下着などこれから必要になる物を買ってくるといい」


諭吉さんが・・・五枚。十分すぎる額だ。まだギリギリ高校生の私にとっては大金である。頭を下げてそのお金をポケットに入れた。別段動くこととかなくて服は取り替えてなかったけど、そろそろ限界だったのだ。言い出そうにも言い出せないし(男ばっかだし)。


「ああ、もちろん誰か一人同行させるよ。確か涼太が任務も何もいれてなかったな」


一人ひとりの日程を把握してるのか、すげえ。赤司ってもしかして脳内はロボットなんじゃないの。
でも、黄瀬はいただけない。じっと赤司を見つめると、彼は少し笑った。


「君は涼太と気が合うと思うよ」
「何を根拠に」
「勘だ」


せめて、女の子と買い物に行きたかった。女の子のキャラ出て来てくれてもいいんだよ。
あの、なんだっけ・・・すっごいおっぱいが大きなピンクの子とか、監督さんとか。
「呼んだっスか赤司っち・・・げっ」あからさまに顔をしかめた黄瀬。いつ見てもむかつくイケメンだ。私だって黄瀬なんか願い下げなのに。


「今日から俺たちの仲間になった楸久遠だ」


赤司に目配せされて、必要なのかよと思いながらも軽く頭を下げる。
黄瀬の目を見ないように、すぐに下を向いた。


「本気だったんスか赤司っち」
「冗談は苦手だよ。さっそくだが、彼女の身の回りの物を一緒に買ってきてくれ。お前の今日の任務はそれだ」
「また俺っスか!」
「涼太が一番適任だ。気も合うようだしね」
「何を根拠に!」


うげ、同じこと言ってるよ。
苦い顔で赤司を見れば、「だから言っただろう?」とでも言いたげな含み笑いが返ってきた。
じゃあ、と小さくなっていく彼の背中を見送って、ポケットに入れたお金を確認する。パジャマのまま外に出るのは結構勇気いるな。たぶん赤司はそのことに気づいてたんだろうけど、何もフォローしてくれなかったってことは、このまま出かけろってことなんだろう。さらっと鬼畜だあの人。


「・・・・・・・・・・・行くっスよ」
「ん」


小さく舌打ちした黄瀬が、先を歩く。
その長い足を惜しげもなく動かすものだから、背の低い私は小走りになるしかない。くっそ舌打ちしたいのはこっちだよボケ。
舌打ちを喉の奥に押し込んで、広い背中を睨んでおいた。

■■□■

「ハァイ黄瀬くん」
「氷室さん。こんちわっス」


驚いた。表向きはほんとのバーやってんだ。こないだは裏口から入ったんだろうか。
カウンターにいる男性は片目が隠れていてミステリアスな雰囲気を醸し出していた。腰に巻くタイプのエプロンがよくお似合いだ。見覚えがある。確か、敦と同じ学校だったはずだ。考えをめぐらせていると、氷室さんは私の格好を見て少し驚いた顔をした。・・・くそ、赤司め、服くらい貸してくれたっていいものを!


「君が楸さんかな?」
「あ、はい」
「俺は氷室辰也。よろしくね」
「あ、はい。楸久遠です」
「アンタの名前はもうみんな知ってるっスよ。さっき氷室さんも呼んでたっしょ」
「一応自己紹介したんだよ別にいいじゃんいちいちつっこんでこないで」
「その口縫ってやろうか」
「あん?」
「こらこら、二人とも。白昼堂々と喧嘩しないでくれ。一応お客さんとか入ってくるからね」
「あ、すみません」


小さく頭を下げると、氷室さんは大丈夫だけとと笑った。うわぁイケメン。黄瀬も氷室さんの垢を煎じて飲めばいいんだ。
・・・あれ?でも、なんでわざわざこっちを通って外に出るんだろう。表向きのバーで裏口が存在するなら、そっちから出たほうがよかったんじゃないのか。・・・ああ、一応建物内の仕組みを知っておいたほうがいいと思ったのかもしれないな。
むすっと口元を引き結んだ黄瀬を見上げて、小さくため息をついた。先が思いやられるよ。


「買い物に行くんだろう?その格好でいいのか?」
「赤司ってたぶん鬼畜なんだと思います」
「・・・言っとくけどカメラと盗聴器ばっちり設置されてるっスよ」
「赤司はまじで優しくて神様だと思います」
「っはは、楸さんて面白いんだね」
「なんだろうすごく嬉しくない」
「あーもう早く行くっスよ。こんな任務、任務って言えねぇし早く終わらせてェ」
「連れが黄瀬なんて最悪すぎて言葉出てこないんですけど氷室さん交代してくれませんか?」
「赤司っちー、こいつ殺していっスかあー」
「行こう黄瀬!黄瀬は最高!まじ紳士!」
「行ってらっしゃい。またゆっくり話そうね」
「是非」


最後までイケメンの氷室さんが手を振ってくれたから軽く振り替えして黄瀬の背中を追う。入れ違うようにして入ってきた一般人になんだコイツみたいな目で見られたからもう死にたい。
なにが嬉しくてパジャマのまま外出しないといけないのか甚だ疑問である。

久々の外の空気は、やっぱり向こうとは少し違う気がした。
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