「ここから出してあげるわ」


青峰と入れ違いで監視の任務に就いた実渕玲央の第一声である。ぽけっと口を開けたまま固まってしまったのは許してほしい。頭がショートしてしまった。
なに言ってんだこの人。ていうかここってキセキだけじゃなかったんだ。
ええっと待って、頭が追いつかない。反応しない私に、クスリと妖艶に微笑んだ彼が近づいてくる。

出すって、どこにだ。外にか。


「征ちゃんから事の経緯は聞いてるわ」
「はあ、征ちゃん」
「赤司征十郎。ここのボスよ」
「征ちゃん・・・ぶふっ」
「アンタそれ彼の前でやったら殺されるわよ」
「スミマセン」
「で。出たくないの?」
「出るってどこにですか?」


どこに。
その疑問に、実渕玲央はすっと真剣な顔つきになった。ちらりと部屋中に設置してあるカメラを警戒するそぶりを見せて、耳に顔を寄せてくる。
ふわっと香水の匂いが香ってきた。私より女子力高いぞこれ。


「逃がしてあげるってこと」
「・・・ええ?」
「何の罪も犯していないアナタがここで人生を棒に振ることなんてない。アタシがどうにかして逃がしてあげる」
「・・・・・・・・」
「もちろん見返りなんていらないわ」


そう言って、実渕玲央は唇に人差し指を当ててウィンクをしてみせた。オネェだけどキマってるからなんとも言えない。
・・・けど、何言ってるんだこの人。そんなことをして、赤司がやすやす逃がすとでも思っているのだろうか。ヘタをすれば、逃がすどころか二人とも殺されて終わりだ。たぶんここは、そういう世界なのだから。
まったく私も面倒なとこにトリップしたなぁ、なんてここ数日で何度思ったか知れない。

息を吸い込む。


「遠慮しておきます」
「え?」
「まずこの部屋でこういう会話してる時点で、えーっと、あなた」
「・・・実渕玲央よ。玲央姐って呼んで」
「玲央姐は危ない」
「あら、カメラや盗聴器ならさっきそれの管理室で無効にしてきたわよ?」


得意げに笑った玲央姐まじで美人なんだけどどうしよう。女子やめたい。
っていうかカメラと盗聴器無効にしてきったてことは、この人は結構上の立場なんだろうか。
それとも本気で私を逃がそうとしているんだろうか。

じっと彼の目を見る。漫画で見たことはあるにしろ、初対面の彼の考えは読めない。何を考えているのかわからなかった。
ただ、きっと、推測だけど、この人は、


「・・・遠慮しておきます」
「・・・・・・どうして?」
「初対面の私に対して自分を犠牲にするような人には見えない」


何を企んでるのかわからないけど、私の記憶ではこの人は赤司を信頼していた。
赤司を裏切る行為は絶対にしないはずだし、赤司を出し抜くなんてことは想像し難い。・・・オヤコロだし、裏切りを見過ごすほどあいつは甘くないと思うし。
息を吐いて前髪を触れば、玲央姐は「合格ね」と微笑んだ。ん?合格?


「聞いてた?征ちゃん」
「ああ」
「ええ?」


扉の向こうから登場した赤司に驚きが隠せない。ぽかーんと口を開けていると赤司は口元に笑みを浮かべながら歩いてきた。同時に玲央姐が彼の後ろに使える。
なんだこれわけわからんぞ。
ベッドの上で固まったまま動けないでいると、赤司の手が私の肩に乗った。


「楸久遠。状況判断能力、順応力・・・ともに申し分ない。組織の一員として、俺たちとともに働いてもらおう」
「は、はい?」
「君も気づいていたとおりこの部屋に設置したカメラと盗聴器で、ここ数日の様子を見させてもらっていたよ。敦や大輝にも動じない。その度胸は大したものだ。監禁するとは言ったが、これを使わない手はないだろう」


ちょっとこの人がなに言ってんのか理解できない。
助けを求めて玲央姐を見るけど、彼は微笑んだだけで何も言わなかった。バカヤロウ!
今こそ私を助けるところでしょ!


「待ってください赤司、ちょっと言ってる意味が」
「・・・そうだな。玲央、少し席を外してくれないか」
「了解。ごゆっくり」


ごゆっくりしたくねぇよ。
さっきと同じようにウィンクを残して、玲央姐は部屋のドアを閉めた。二人きりなった室内。空気が重くなったって感じてるのは私だけなのか、赤司は涼しい顔で腕を組んだ。


「簡単に言うと、俺たちはテロを未然に防ぐ活動を主とする組織だ」
「テロを未然に防ぐ?」


頷いた赤司に、先日の黄瀬の言葉が甦る。
"カメラはもうピックアップしてるんスよね?"ああ、あれか。
少なくとも自分達の手が届く範囲には、おびただしい数のカメラが設置されてあるわけだ。しかもテロを未然に防ぐってことは、なにか特殊な仕掛けをカメラに施している。・・・まぁ、赤司なら造れなくもなさそうだ。こいつ確か頭良かったし。
でも、もしこの推測があってるとするならば、いつ何時も監視されてる住民たちのプライバシーはどうなるんだろう。これって大問題じゃないのか。

眉を寄せると、赤司は「さすが、頭も悪くないようだな」と笑った。・・・馬鹿にしてるのか。


「もちろん大問題だ」
「ですよねー」
「俺たちは世間ではもう亡い存在だ。カメラがピックアップした人物を、ひっそりと、片付ける」


片付ける。すなわち、殺すと言うことだろう。
なんちゅーどろどろした正義なんだ。でも、彼なりの正義。


「異論は聞かないよ」
「言ったら殺されると思ったんですけど」
「まぁ否定はしない」
「ですよねー」


私に人が殺せるのだろうか。その答えはもちろんノーだ。じゃあ私に何を求めているのだろう。
赤司の瞳を見つめ返す。彼はすっと目を細めた。


「君にしかできない役目だ」


これから大変なことになりそうな予感がした。
こんな嫌な予感、外れてくれて全然かまわないんだけど。
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