呼び鈴が鳴って出てみれば遙先輩が居たのだから驚きだ。お風呂から上がったばかりなのか、髪の毛が若干湿っている。今に始まったことじゃないけど先輩はもう少し自分のルックスがいかに他人の心臓に悪いかを自覚するべきだ!


「ど、どうしたんですか」
「顔が見たくなった」


だからって家まで来るか普通。ていうか学校でも毎日会ってるし!?
そのまま倒れこむように抱きついてきた遙先輩は、ぐりぐりとあたしの肩に額を押し付けた。な、渚みたいだ。ていうかこんなとこ家族に見られたら死ぬ!
ぐいぐい先輩の肩を押しながら、「ちょ、外!外出ましょう!」抱きつかれたまま外に出る。
季節はすっかり夏で、七時を回った今でも外は明るい。遠くに見える海が空と同化して見えた。

そういえば、明日は、水泳部の大会の日だ。


「先輩」


呼べば、遙先輩は応えるかのように、あたしの背中に回した腕に力を入れる。ちょっと、まじで恥ずかしいんだけどこれ。
顔に熱が集まるのを自覚しながら、少し強めに先輩の背中を叩いた。


「あっ、明日、応援してます」


こくん、と、小さく彼が頷いたのが肩に伝わった。緩む頬。こんな顔見られたくないし、抱きしめられててよかったのかもしれない。いやちっともよくない、心臓持たないわ。
遙先輩の名前を呼びながらあるだけの力を込めて肩を押すけど、まぁ力の差は歴然としていて。


「いやだ」


珍しく子どもみたいに駄々をこねる先輩に折れたのは、言わずもがなあたしだ。
ほんと、自分でも単純だと思う。呆れのため息をついて、先日渚に言われた言葉を思い出した。

"久遠ちゃんはハルちゃんに抱きつかれたりするの、いや?"

・・・・・嫌じゃ、ない。むしろ、・・・・むしろ。むしろ、
ああああああああああああああああああああああああああ!もう、認めるしかない。けど、まずは明日彼らを応援して、それからちゃんと、自分の気持ちを伝えないといけない。

遙先輩の服を握る。すると彼は肩を揺らして、そろっと顔を上げた。薄暗くてよく見えないけど・・・あれ?先輩、なんか、顔赤い・・・?


「いっ!?だだだだだだだ!ちょちょちょ遙先輩いだだだだ!!」


と、思ったら今まで以上に強い力で抱きしめられた。ていうかこれ締め付けてないですか!?
ばんばんとあたしも力を込めて遙先輩の背を叩く。しばらくしてやっと力を緩めてくれた。真面目に死ぬかと思った。


「久遠が悪い」


なんで!?

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