「青峰っち!何逃げようとしてるんスか!交代!」
「一日中女見とくだけとかだりーし」
「赤司っちに言いつけるっスよ」
「・・・チッ」


昼間から不愉快な会話である。別に私は逃げも隠れもしないんだから監視なんていらないんだけど。ていうかむしろこんなに嫌がられるならほんとなにもしないから一人にさせてほしいんだけど。
自分でもしかめっ面になっているのが分かる。黄瀬が嫌々運んできてくれた昼食を口に運びながらチラリと言い合っている(黄瀬が一方的に吠えてるだけに見える)二人を見る。
ガングロもとい青峰は心の底からだるそうな顔で頭をがしがし掻いていた。
まぁここで「別に逃げるつもりないから監視いらないよ」って言ったって信じてはもらえないだろう。非常に不愉快で沸点の高くない私は今にもストレスでキレそうだけれど、黙っておくしかない。
ここの白米美味いな。


「黄瀬お前今日なんかあんの」
「海常に行くつもりっス」
「暇なんじゃねーか。代われよ」
「絶対いやだし。俺にあと一日もあいつ見とけって言うんスか」


・・・・・・ほんっとに失礼な奴らだな。まぁあの二人にとって私は邪魔な存在でしかないから当たり前と言えば当たり前か。それでもあれだな。部屋を提供されても居場所がないって、結構キツいな。早くあっちの世界に帰れる手がかり探さないと。
・・・そのためには、この部屋から出て手がかりを集めないといけない。あー、どの道いつかあいつらの目をかいくぐってここ脱出しないと無理なのか。
寝て覚めたらこっち来てたんだから寝て覚めたらあっちに戻ってるっていう夢オチ展開ないかなー・・・。

・・・んん、ていうか、待て。海常って黄瀬が通ってた高校の名前じゃなかったっけ?
あ、あと一口で食べ終わる。


「・・・ごちそうさまでした」


手を合わせて、小さな声で呟いた。視線を感じて顔を上げると、青峰が訝しげにこっちを見ている。なんだ、なんだってんだ。そんな物珍しそうな表情してもなにもできないからね。


「じゃあ頼むっスからね青峰っち!」
「わーったよ、とっとと行け犬っころが」
「俺は人間っス!」


なるほど、気を許した人にはとことん懐く黄瀬、犬だ。例えがうまいな青峰。心の中で拍手を送る。
ばたばたを慌しく駆けて行った黄瀬の後姿を見送りながら、おぼんの上で食器を重ねて立ち上がる。青峰はそんな私の行動を察したのか、だるそうにあくびをこぼした。


「そこ置いとけ。あとでテツあたりが取りに来んだろ」
「テツヤさんって家政婦かなにかなの」
「んなわけあるか。あいつは、・・・っと。お前には関係ねぇよ」
「・・・別に私に何を話しても情報を洩らす相手いないんだけど」


そう言ってため息を吐く。信用されてないのは百も承知だけど、そろそろあの警戒心むき出しな目は飽きてきた。っていうか気分悪い。いつまで世話になるか分からないんだし、多少のコミュニケーションくらい図ったっていいでしょうに。

言われたとおりに机の上に食器の乗ったおぼんを置く。ああ、また暇になったなぁ。


「パソコンとか提供されないの、めっちゃ暇」
「お前言うことからして賢いのかと思ったけどやっぱ馬鹿なのかよ」
「はい?」
「パソコンとかいくらでも情報洩らせるだろうが」
「・・・青峰って絶対機械オンチでしょ」
「ああ?」
「ネットに繋がんなくても遊べる手段なんていっぱいあるんです」
「知るか。つーかいきなり呼び捨てかよ」
「青ちん」
「紫原みてーな呼び方すんな。・・・青峰でいーぜ」
「どっちだよ」


黄瀬よりは話し相手になりそうだ。
調子に乗った私はベッドに横になりながら「ひーまひーまひーま」と連呼する。「黙んねぇと脳天ぶち抜くぞ」ごめんなさい。
初めて銃口を向けられた相手は青峰なのだから、若干トラウマなのだ。死への恐怖は私だって持ってる。

それにしても、と改めて部屋を見渡す。昨日今日で部屋全体を確認してみたけど、このおびただしい量のカメラはなんなの。こんなの監視する人いらなくねってくらいカメラ設置されてんだけど。たぶん盗聴器も。おならとかできないじゃん、どうしてくれんの。


「遊び提案していい?」
「は?」
「この部屋に設置されてるカメラとか盗聴器とかを何個あるか探し当てるゲームしない?」
「・・・・・・・・お前」


え。え?なんかまずった?
冷たくなった青峰の視線に体が固まる。この視線はあれだ。戸惑いもなく私に銃口を向けたときと同じそれだ。
室内の温度が冷えた気がした。


「・・・・・・ふーん、赤司が生かしたわけが少し分かった気がしたぜ」


昨日、敦がこぼした言葉に似た台詞だ。あいつはなんか「生かしとく理由がわかんねーし」みたいな感じだったけど。
なんなの。ほんとになんなの。生かすってなんだ?もしかして私、とんでもなく危険なとこに拾われたのかもしれない。

太ももに装備してあるショルダーから拳銃を取り出した青峰は、それをくるくる回したり投げたり、危なっかしい暇つぶしをし始めた。
あんな冷たい空気にしておいて、自由な奴だなクソヤロウ。肩の力を抜いて、ベッドに座りなおす。せっかく思いついた遊びはタブーっぽいし、また暇になった。
けっこう良い案だと思ったんだけどなぁ。


「探してみろよ」
「んん?」
「カメラと盗聴器」
「あ、やっぱ盗聴器もついてるのか。不用意におならとかできないなこれは」
「貧乳で下品とかぜって需要ねぇぞお前」
「一言以上に余計だわ」


真顔で言った青峰を睨んでも当然怯むわけもない。暇つぶしにカメラと盗聴器を探してみようと立ち上がった。

結局多すぎて途中で断念した。
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