気づいたらベッドの上で寝てたよね。だってすることなさすぎるんだもん。これじゃトリップする前となんら変わらない。
覚醒しきってない頭で周りを見渡すけど、どこかに出向いたのか黄瀬の姿はない。・・・あいつ任務放棄してやがんの。
これじゃ食事も頼めないしトイレもいけないじゃないか。テツヤさんは監視してる人に一言言えって言ってたしなー、どうしよう、でも漏れそう。
寝起きっていつもおしっこ漏れそうなのなんでなんだろう。

立ち上がってそっと扉を開けてみた。ひんやりとした空気が頬を打つ。誰も居ないのかな。
でもなーおしっこ漏れそうだしなー。どこ行ったんだあの黄色頭。くそう。


「黄瀬ー」


小声で名前を呼んでみた。もちろん返答はない。もういっそもらしてしまおうか。
・・・いやそれはダメだ、私のプライドが。ここじゃ自由に動けないだろうし、誰から私の漏らしたおしっこを後始末するって考えたら絶対に漏らせない。・・・オムツください。


「・・・うう」


考えれば考えるほど漏れそうになってきた。身をよじりながら、きょろきょろと廊下を見渡す。
なんで居ないんだよあのクソデルモが!顔がよければなんでもしていいとか勘違いしてんじゃねーぞ!おとなしく私の監視しとけや!・・・と、限界すぎて思考がおかしな方向に行ってる。ダメだ。テツヤさん早く戻ってきてぇ。

もう一度。最後の望みをかけて大きく息を吸い込んだ。


「黄瀬ぇ!」


静まり返った廊下に私の怒号が木霊する。すると向かいのドアが勢いよく開いて、じゃかっと音がして本日二度目になる、銃口が私に向けられた。


「クソうるさいんだけど。死にたいのー?」
「死にたくないですけど漏らしたくもないです」
「はぁ?」

私の向かいの部屋、敦だったのか。めっちゃ嫌なんだけど。
なるべく手短に状況を説明すると、「なにやってんの黄瀬ちんー」とだるそうに髪の毛を書き上げた敦はのそのそ歩き始めた。ついてこいってことかな。漏れそうだからもっと速く歩いてほしいんだけど。
それにしてもほんとでっかいな。常人より何倍も大きな背中を見ながら歩いていると、急に立ち止まった敦に鼻からぶつかってしまった。


「っ、ごめん」
「トロ。赤ちんもよくこんなの生かしてるなー」
「?生かしてる?」
「・・・こっちの話ー。さっさとトイレ行ってきてくんない?」
「あ、はい」


敦の言葉に引っかかりを感じたけど、今はそれどころじゃないな。
猛ダッシュでトイレにかけこんだ。

■■□■

「紫っち!あの女見なかったっスか!?」


焦ったような黄瀬の声が外から聞こえて、手を洗っていた私はすばやく水を拭き取った。
いや、でもこれ私悪くないよな、うん。悪いの黄瀬だよな、うん。
トイレから顔を出すと、敦はなにかを食べながら出てきた私を指差した。黄瀬が私を見て肩の力を抜く。あいつ絶対下っ端止まりだわ。
つかつかと歩いてきた黄瀬は私をキッと睨んで、「勝手にいなくなられたら困るんスけど」はいいいいい?


「黄瀬がいなくなってたんじゃん」
「野暮用ができただけっス!」
「漏れそうだったから仕方ないし」
「あんたが逃走でもして絞められるの俺なんスからね」
「知るか。つかおしっこだって言ってんじゃん」
「また今みたいなことあったら面倒だから赤司っちに相談してあんたのこと処分させてもらうから」
「理不尽極まりねぇなオイ、それでも人間かよ」


苛立つ黄瀬に乗じて私も苛立ち、荒くなる語尾。最後の私の言葉に何故か切なそうに揺れた彼の瞳だけど、それは一瞬だけだった。・・・見間違いか。
とりあえず戻るっスよと強引に手首を引っ張られる。こっちに来たばかりでまだ精神にゆとりがないのだ。苛立ったので振り払っておいた。

敦は、私と黄瀬が言い合っているうちにどこかに消えてしまっていた。
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