それじゃああとはよろしく頼むよテツヤ。
そう微笑んで私の後ろに視線をやる赤司に首を傾げる。テツヤ。これまた聞いたことのある響きだなーと思いながら振り向くと、いつの間にか色素の薄い人がいた。主人公だ。心臓止まるかと思った。苗字なんだっけ、これまた忘れた。
主人公の苗字忘れるってどんだけだよ私・・・うーんと、確か漫画のタイトルにもなってた気がするんだけど・・・


「はい。では、行きましょう楸さん」
「え、名前」
「赤司君に事前に聞いていました。この組織にいる人ほぼ全員が貴女のことを把握してます」


情報回るの速くね。ってことはさっきの巨人・・・敦だっけ、あの人も私のこと知っててあんな態度とったわけか。なかなか素直じゃないやつだななんて思っていれば部屋を出る寸前に「敦は普段からケータイを見ないんだ」背後から赤司の声。この人エスパーかよ。
軽く会釈をして出たテツヤさんに習って一礼する。腕を組むその様はもうなんというか、神々しささえ感じた。

■■□■

「ここです」


案内された場所の扉の前で一度立ち止まったテツヤさん。真っ黒な扉を見上げていれば、「ああ、すみません。手錠を外しますね」と鍵を取り出した彼は簡単に私の手を拘束していたそれを外してくれた。


「ありがとうございます」
「いえ。ご飯などは僕や他に監視につく方が運んできます。トイレは・・・そうですね、部屋の中を見てからのほうがいいですか?」
「あ、いえ、先に教えてください」
「・・・わかりました」


敬語の彼につられて敬語になりながら、また歩き始めたテツヤさんの後をついていく。
それにしても、窓もなんにもないしめった空気だなぁ、ここ。まぁアジトなんだし当たり前か。


「貴女は・・・」
「わ、あ、はい?」


突然立ち止まったテツヤさんにぶつかりそうになったけどなんとか踏みとどまって、振り返った彼の大きな瞳を見つめ返す。
テツヤさんはじっと私を見つめたまま、なかなか話そうとしない。なんだこれ、気まずいぞ。


「あの・・・?」
「・・・事の経緯は聞いています。僕ではお力になれないかもしれませんが、なるべく理不尽な扱いを受けられないように配慮します。災難でしたね」


災難でしたね、で済めばいい出来事じゃないけど。
それでも一応気を遣ってくれたのだろうテツヤさんに「ありがとうございます」と笑っておいた。あ、こっち来てから初めて笑った気がする。
同じように小さく笑い返してくれた彼は、きっとこの組織の中でも常識人なのだろう。ちょっと心が軽くなったぞ。


「トイレはここです」
「おお、綺麗」
「お風呂はこの隣です。利用する際はその時監視している人に一言言えば使えます」
「ありがとうございます」
「いえ。・・・本当は、ここから出して家族の元へ帰してあげたいのですが・・・それをすれば僕が殺されるので・・・本当にすみません」


テツヤさん超良い人なんだけど。
思わず自由になったばかりの手で彼の手を握る。少し驚いたのかもとから大きな目をさらに大きくしたテツヤさんは、薄く笑った。


「何かあったら頼ってください。それと敬語はいりませんよ。僕のこれは癖のようなものなので」
「っありがとうテツヤさん!」


気軽に話せそうな友達をゲットした。
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