途中でガングロは「マイちゃん見なきゃなんねー」と言っておそらく自分の部屋なのだろう、ドアを開けてその中に消えていった。恐ろしく部屋が散らかっていたのは見てみぬふりをしておこうじゃないか。私は何も見ていない。・・・どうやったらあそこまで汚くできるのか逆に不思議だ。
それにしても、この緑頭の視線が物凄く痛い。私がオヤコロに危害を加えるとでも思ってるのだろうか。そんなのたちまち返り討ちにされるわボケ。

とことこ歩いてついていくと、なにやら一番奥に大きな扉が見えて息を呑む。ボスの部屋っぽいところだ。扉の色も赤だったし、正真正銘ここがオヤコロの部屋なのだろう。帰りたい。


「真太郎、自室に戻れ。あとは俺がやる」
「・・・だが」
「心配は無用だ。いざとなったら敦がいる」


ああ、敦か、あの巨人。確かそんな名前だったわ。一人納得して小さく頷けば、なのだよの訝しげな視線をいただいた。嬉しくない。
でもあの巨人、さっきすれ違ったばっかだよね?いざとなったら敦がいるって、どんな離れたとこにいてもドラ○もんのあのアイテムでぽーんって登場できるの?なにそれ楽しそう。

前を歩いていたオヤコロが扉の前でまた認証ボタンやら指紋やらボイスやらを確認して、重たそうなそれが開く。
垣間見えたガングロの部屋とは違って、無駄なものは置いてない清潔そうな部屋だった。ただ少し息苦しい。


「座って」


差し出されたパイプ椅子に座る。するとオヤコロは「本当にスパイとかではなさそうだね」と笑った。なんのことかわからずに首を傾げる。


「いや、いい。前置きはせずにいきなり本題に入らせてもらうが」
「?はぁ・・・」
「俺達の会話を聞かれた以上、君を解放するわけにはいかない。どんなに無害であろうとその口の堅さを説明されても」
「まぁ、大方予想はしてました」


それに私、口軽いし。という言葉は飲み込んだ。
オヤコロは少し目を見開いた後、面白そうに目元を細めた。その目にはなんでも見透かされそうで居心地が悪い。


「驚いたね。普通は恐怖に慄き泣き喚いたりするものだが、君は大輝に銃口を向けられても命乞いすらしなかった」


あれはただ動けなかっただけだけど。
曖昧に頷いておく。実は違う世界からきました、なんて言ったって信じてもらえるわけはないし、何よりまだ夢の中にいる気分だ。さっきから何度もつねる手の甲はもう赤くなってしまっているけれど。

それに、ここに置いておいてもらうほうが私としては都合がいい。
こっちの世界でどこに向かって歩いてどう生活すればいいのかわからなかったのだから。殺されないだけましだ。まぁ一番いいのは、これが夢ならとっとと覚めて、ついでにもう二度とあの漫画は読まない。ハマりすぎて自分でも買おうか迷ってたとこだけど。


「部屋をひとつ与えよう。君としては不愉快極まりないだろうが監視役も随時つける」
「外に出たりとか」
「無論禁止だ。ここでは俺が全て。逆らう奴は・・・」


すっと部屋の温度が下がった気がした。冷たい瞳に思わず体が硬直する。蛇に睨まれた蛙状態だ。


「大丈夫ですオヤコロの言うとおりにします」
「は?・・・ころ?」
「なんでもないです赤司様」
「・・・・赤司でいい」


テンパりすぎて色々口が滑った。こりゃー私絶対スパイとかできないわ。する気もないけど。
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