どうしよう怖い。ていうか出て行くタイミング掴めない。さらにはこっちでどうやって生活していけばいいのかわかんない。
明日のことは決定したはずなのにいつまでもその場から動かない赤と緑の頭。ただのトリップならまだよかったけど、どうやらここはその漫画のパラレルワールドにあたる世界だ。
なんちゅーややこしい世界に来てしまったんだ。あの時眠気に身をゆだねた自分を恨むぞ。
聞こえてくる会話に耳を傍立てる限り赤い髪の人(オヤコロ)と緑の髪の人(なのだよ)は仲間で、なんらかの組織のメンバーで、たぶん、オヤコロがボスなのだろう。あの人が他の誰かの下につくとか考えられないし。
そしてこれは、きっと聞いちゃいけない会話だった。それくらいはわかる。すみません学校サボって寝てましたぁ!なんていう冗談が通じる人たちでもないだろうし、こっそり見えたあの太ももに装備してあるのは銃だ。
なんだこの世界怖すぎるだろ。ぶるぶる震える体を両手で抱きしめていると、また違った声が廃墟に響いた。


「おーっす」
「遅いぞ大輝。何をしていた」
「わり、しょんべん」
「もう少しオブラートに包むのだよ」


キタァァアァァァァア桐皇キャラ!ガングロ!中学校から悪い意味で心機一転、死んだ目するようになった奴!苗字忘れたけど!今吉さんの手を煩わせてた生意気坊主だ。
どきどきうるさい心臓を無理矢理鎮めようと深呼吸する。
二言三言言葉を交わしたガングロ君は、途中で眉根を寄せた。


「・・・つーか赤司、お前が気づかねぇってことは相当のやり手なのか?」
「?なんのことだい?」
「女の匂いがする」
「っ!?」


死亡フラグびんびんに立った。
ゆっくりと歩み寄ってくる足音に、何もできずに固唾を呑む。
「女の匂い?」と訝しげななのだよの声がする。そりゃそうだ、私だってこの展開についていけないんだから。ていうかこっちの私が死んだらあっちの私はどうなるんだろう。ちゃんと目覚めるんだろうか。
初めての一人暮らしのための買い物もまだ行ってないというのに、心残りがありすぎる!


「・・・あ?」
「ひいっ」


ひょこっと顔を覗かせたガングロに、情けない声が出た。
「丸腰じゃねーか」銃口が額に向けられる。あ、やめて私先端恐怖症なの。むずむずする。
って、そんな場合でなく!この銃は本物の銃なのだろう、一瞬でも妙な動きをすれば必ず殺される。どうせ体のどこも動いてなんかくれないけど。

続いて顔を覗かせたオヤコロとなのだよは、ガングロと同様少し拍子抜けした表情で私を見ていた。それでも警戒を解いた様子はない。


「女・・・いつから話を聞いていた?」


なのだよの厳かな声がやけに大きく聞こえて私は息を吸い込む。
口を開く前に左右非対称のオヤコロの眼に射抜かれ、結局何も言えないまま口を閉ざした。
残念ながら殺すという単語を聞いてしまったのだ。きっとこのオヤコロの前では嘘は通用しない。泣きたい。悔いが残りまくりの人生だった。こんな形で終了するなんて夢にも思わなかったけど。
幼い頃に死んだばあちゃんの顔が思い浮かぶ。仏壇に毎日手を合わせてたらこんなことにはならなかったのかもしれない、なんて。


「殺すか?」


なんでもないように、それが当たり前のように吐き出された言葉に思わず肩を揺らす。
私に銃口を向けたままのガングロは、いつでもその引き金を引けるだろう。オヤコロが頷けば、一秒も立たないうちに。
どうせなら即死がいいな。痛いかな。怖い。死にたくない。

見上げた先にいたのは、ヘテロクロミア。鮮やかな赤と、黄色の瞳だった。


「・・・・・・・いや」
「赤司・・・!?」
「大輝、銃を下げろ。この女は俺たちのアジトに連れて行く」
「はぁ!?正気かよ」
「無駄な殺生はあまりしたくない。アジトに連れて行けば情報が漏れることもないだろう。真太郎」
「・・・・お前がそう言うのなら、俺は口を出さん。立て、女」


眼鏡を押し上げながら、なのだよが私を見下ろした。
これ、命は助かったっぽいぞ。
動きそうにない足を無理矢理動かして立ち上がれば、眩暈がした。私、これからどうすればいいんだろう。元の世界に帰る方法を探さないと。
強引に掴まれた腕。いってーなこのやろう、もう少し丁寧に扱えや女子は。なんてことは言えない。
だるそうに銃をショルダーにしまったガングロが、だるそうにあくびをこぼした。おいこら私あくびうつりやすい体質なんだぞ。あくびって文字見ただけであくび出ちゃうような体質なんだぞ。
ここであくびしたらなのだよに殺されそうだからしないけど。

出かけたあくびを噛み殺しながら、なのだよに手を引かれて歩く。
ああ・・・お先真っ暗、前途多難だ。
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