※オリキャラ注意
恋しいだなんて馬鹿な
『いい加減起きろよ』
まどろみの中で、声が聞こえる。
呆れを含んだ、それでいて優しい声。大好きな声。
『布団干すぞ』
もうちょっと寝かしてよ。あたしこのまま布団と結婚しようかな。
虚ろな視界で、捉えられた赤に少しだけ安心するんだ。
『おい、―――』
ねぇもうちょっとだけ、・・・お兄ちゃん、
「おい!」
「っ!?」
夢とは違う赤が視界に飛び込んできて、我に返る。
サソリさんが、顔をしかめてあたしを覗き込んでいた。
あれ、あたしどうしたんだろう。確か、マダラにおぶってもらって雨隠れに・・・
「あぁぁぁあああああああああああああ!!!!」
「、うるせぇ」
叫び声を上げたと同時に、思い切り頭を殴られる。
だけどそんな痛みなんか感じないほどに、あたしは最高潮に焦っていた。
なんであたしは寝ちまったんだ!!
「マダッ、トビ!!トビはどこですかサソリさん!」
「知るか。つかアジトの入り口で堂々と寝てんじゃねぇよ」
「え、あ、え!!?トビのくそ!なんでこんなとこにおいてんだよ!」
長い間寝てしまってたのか、すっかり体は冷え切ってて自覚したとたんにぶるぶると体が震えだす。
ふとなにか黒いものが顔を覆った。突然遮断された視界に焦って意味もなくサソリさんの名前を叫べば、うるせぇ黙ってそれ着て早く中に入れと一喝された。
え。これもしかしなくてもサソリさんのコートだったりするんだろうか、幸せすぎる。
「サソリさん愛してます!!」
「・・・、分かったから早く入れ」
「はい!!」
いちいちうるさいやつだ、と後ろでぼやくサソリさんに口元がにやける。
うへへ、サソリさんのコートだよあの赤砂のサソリさんの!
ふと、もうひとつの赤を思い出した。
・・・あの人も、サソリさんみたいにぶっきらぼうに優しさをくれた。
「・・・おい」
「はい?」
「・・・やっぱなんでもねぇ」
「えー気になるじゃないですか!」
もう会うことはないんだな、だってあたしは死んでしまった。
そのおかげでこっちにこれたんだから、結果としてはオッケーなんだけどね。
もうあの人に会えないことだけが、少し心残り。
「お前、」
「?」
「・・・いや。やっぱなんでもねぇ」
「なんですかもう」
ホームシック、なんてそんな馬鹿な。
なんでいまさらこんなに家が恋しくなってくるんだろう。
あたしはこっちに来れて、嬉しいはずなのに。
「あ、コートありがとうございます!」
「・・・おう」
「じゃあ、あたし部屋に戻りますね!」
「ああ」
今日はなんだか少し優しいサソリさんに、鼻の奥がつんとする。
あたしの変化に一番敏感なのは、アジトの中だったらきっとサソリさんだ。
そんな気遣い、サソリさんらしくないのにね。
変えてしまったのは、あたしなんだ。
「・・・風邪引くなよ。まぁ馬鹿は風邪引かねぇと思うがな」
「風邪引いたらサソリさんに看病してもらうんで心配いりません!」
「誰情報だコラ」
「えへ☆」
サソリさんは、お兄ちゃんに似てる。
すごくすごく不器用で、あたしのたった一人の大切・・・だった人。
視界の奥で揺れた懐かしい赤髪に、また泣きそうになった。
くしゃりと頭をなでられて、こらえていた涙が少しだけこぼれる。
あたしはもう死んだ。死んだんだ。
この世界の運命を変える。変えるんだ。
サソリさんも、イタチ兄さんも、デイダラも飛段も、みんな殺させない。
新しくできた、あたしの大切な人たち。
あたしの自己満足でもなんでもいい。これ以上失うのはいやなんだ。
「サソリさん」
「あ?」
「あたし、運命変えますから!」
あの日あたしが失ったものは、自分の命と・・・
サソリさんはそうかよと呟いて、またあたしの頭をなでた。
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お兄ちゃん=ヒロインの死ぬ前の家族。この回でのみ登場。