自分でもこんなことはしたくないけど、なんというかこれしか方法が思いつかなかったのだ。だから、どうか責めないでほしい。


「久遠ちゃん、最近ハルちゃんと会ってないんだって?ハルちゃんすんごい元気なかったよ」
「うっ」


ポッキーを差し出されながら、怜くんの席に座った渚が不思議そうな表情をしている。

たぶん、三日は喋ってないと思う。それもそのはずだ、あたしが彼に会わないように最善の努力を尽くしているのだから。でも、ちゃんと想い合ってる人がいるのに普段からあんな過剰なスキンシップをされていたあたしの心境も考えてほしいものだ、うん。
大丈夫です遙先輩、その事実は誰にも言いませんから!恋愛はどんな形であれ幸せならいいと思います・・・!
ぐっと拳を握り締めると、「なにしてんの?」と渚に真顔で引かれた。辛い。
・・・これでも、罪悪感というものはちゃんと感じてる。でもそれでも、まだ現実を受け止めて向き合う勇気はなかった。
遙先輩が、ほ・・・んあああああ!頭の中でもその単語が言えない!!


「久遠さん」
「あ、怜ちゃんだー!どこ行ってたの?」
「トイレです。遙先輩が来てますよ、久遠さん」


・・・ジーザス!!
怜くんの背後に見えた久しぶりの顔に、頬が引きつる。口元を引き結んだ遙先輩はあたしと目が合うと、ずんずんと教室の中に入ってきた。ひいいいいいい!怒ってらっしゃる!すごく怒ってらっしゃる!
思わず渚の背に隠れる。「ちょっとー」迷惑そうに身をよじった渚なんて知るもんか。今はとりあえず盾になってくれればいい!


「久遠」


低い声に肩を震わせる。普段ぼけっとしてるような人が怒ると、ここまで怖いの・・・!?
あたしの前に立つ渚の体も、若干強張っていた。


「来い」
「は、はいぃ〜・・・」


腕を掴まれて、抵抗することもできずにあたしは泣く泣く遙先輩に引っ張られるまま教室を出る。
ひらひらと手を振りながら楽しそうな表情の渚なんか絶交だ!!

▲▽▲

ずんずんずんずん歩いて、着いたのは屋外プールだった。
遙先輩こんなとこまで連れてきて、ってか授業始まるくないですか。恐る恐る彼を見上げる。
遙先輩は若干眉根を寄せて、それから掴んでいたあたしの手を引いて思い切り抱きしめてきた。
久々の感覚に、思わず息を吸うのを忘れてしまう。


「は、遙先輩」
「渚にくっつくなら俺にくっつけ」
「うえ?」
「おかしくなりそうになる、ここが」


いったん体を離して、遙先輩は胸のあたりを握り締めた。

苦しげな表情に、日ごろからくすぶっていた罪悪感が一気に溢れ出した。
寂しかった。本当はあたしも、遙先輩に会えなくて寂しかったもん。でも、やっぱり凛さんのことを考えたらいつもみたいなことしてちゃダメだって思ったから。


「これはけじめなんです、遙先輩」
「?なんの・・・」
「遙先輩と凛さんの、その・・・そういった仲を自分の中で認めれるようになるまで、あたしは・・・」


遙先輩に会わない方が良い。
思い切って伝えた言葉に返ってきたのは怪訝な顔だった。思わずあたしも眉を寄せる。


「そういった仲ってなんだ」
「えっ、だ、だから、その・・・あたしは別に良いと思いますよ!二人が幸せなら、・・・うん・・・」


目を泳がせながら言葉を紡ぐ。そっと遙先輩に視線を戻したとき、彼は何故か気持ち悪そうに片手で口元を抑えていた。・・・ええ!?
急な変化に戸惑って遙先輩の顔を覗きこむ。この暑さで熱中症になっちゃったの!?


「遙先輩!?」
「俺が凛と・・・?気持ち悪い゛」
「・・・んん?」


しゃがみこんだ遙先輩につられてしゃがみこみながら背中をさすっていると、そんな言葉が聞こえて耳を疑った。
気持ち悪い?気持ち悪いって言ったよね今?

すっと顔を上げた遙先輩がまっすぐにあたしの目を見て、告げる。


「凛はただの・・・ライバル、みたいな存在だ。勘違いするな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・らいばる?」
「ああ。あれは今度の大会で勝負する約束をしてただけだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・は、」


どうやらあたしはまた大きな勘違いをしてしまっていたらしい。
もう一思いに殺してください。
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