「あっ、ねこ」


院を囲む塀の上でのんびりとくつろいでいる野良猫を見つけた久遠が、瞳を輝かせてそれを指差す。
猫なんて特別珍しくもないし、傍にはゼツが二匹いるだろう。呆れた風に鼻で笑えばこいつはそんな俺の思考察したのか拗ねたように頬を膨らませた。
小さな手が俺の腕を叩く。仕返しに頬をつねってやれば、久遠は「いった!」大袈裟に痛がりさっきの倍の力で殴ってきた。・・・こいつ、サソリたちにはあんなデレデレの癖に。


「ゼツはゼツじゃん。ねこでもゼツだもん」
「・・・そんな大差ないだろう」
「あーるー!だいたいしゃべるねことかねこじゃないし!」
「声はおれたちにしかきこえないが」
「オビトってほんとあたしの言うことにいちいちつっこんでくるよね。そんなにあたしのことすきなの?」
「はっ・・・」
「みくだした笑いをこぼすなー!!」


剥きになって繰り出す攻撃を避けながら、塀にいる猫に視線を戻す。
なんとも平和な光景だ。まだ寒いこの時期だけれど今日は晴れ。日向ぼっこでもしているのか、猫は大きなあくびをひとつこぼした。


「ああんかわいいー!」


つられてあくびをこぼしながら、久遠も猫に視線を戻して目元を緩ませる。
なんだか、子どもの体というのはすぐに眠くなる。
時計を見れば一時半を指していた。そろそろ、昼寝の時間だ。各々の布団を取り出し始めた院内の子どもたちに、俺もその場から立ち上がって久遠の腕を引く。


「今日はゼツといっしょにねようかなー」
「なんだめずらしいな。どうぶつのぬくもりがこいしくなったか?」
「ゼツはゼツだけどねこだし、さいきんかまってあげれてなかったし!」
「・・・つぶしてやるなよ」
「ばかにしないでくださる?」
「ほんねを言ったまでだ」
「サソリさんたち、もう布団しいちゃってるしゼツさそうしかない!!」
「おれがとなりでねてやろうか」
「えー・・・」
「なんだそのいやそうな顔は。わかったもうひとりでねればいいだろう」
「うそ!うそです!いっしょにねよオビト!」


早足で布団がしまってあるところに向かう。焦ったように謝りながらついてくる久遠に口角を上げて、腕を組んだ。


「くれぐれもよだれとかぶちまけないでね!」
「おまえ、ころされたいのか」


まったく、生意気な奴だ。

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