雨隠れの神様
おぶされ。歩いていたら1日かかってしまう。
オレの言葉に素直に頷かず、渋い顔をしながら右往左往するこいつの腕を掴んで無理やり肩に担ぐ。
すると久遠は暴れだし、だったらおんぶのほうがマシだとダダをこねた。
いちいち面倒くさいやつだ。
「・・・変なとこつれてかないでよ」
「心配するな。オレにそんな趣味はない」
「そーゆう意味じゃない!!」
違うんだからねほんとに、イタチ兄さんやサソリさんならあたしだって心の準備する暇さえあればなにされても許せちゃうけどね、あ、デイダラはあたしが攻めのほうがいいよね、かわいいデイダラちゃんを見たいし。
なんの話だ。
やはり肩に担ごうか、おぶる形だと耳元で喋るからごちゃごちゃうるさい。
肩に担ぎなおそうかと手を動かしたら、どこ触ってんの変態!と一喝された。
振り落としてしまいたい。
大体こいつは初めて会った時からおかしなやつだった。
オレをマダラだと見抜き、異世界から来たとぬかし、挙句の果てにメンバーに気に入られ(本人達は自覚していないが)、そして忍術も幻術も効かない。
なにより、オレをマダラだと分かっていながら恐怖しない。到底理解できない。
そして、そんなこいつを殺さずにいる自分も。
なんなんだこれは。
「最近デイダラちゃんが冷たいんだよ、なんかさぁ、あたしを変態呼ばわりして。自分なんかこないだ色気ムンムンのあたしに顔赤く染めちゃってさ、どっちが変態なんだかってそんなデイダラちゃんも可愛いから許すけどねはぁはぁ・・・!」
「少し黙れ。お前が変態なのはみな知ってることだ」
「なんかちょっと息が苦しいな」
「そのくだらない妄想をやめたら治るんじゃないか」
あ、ほんとだ。
そう言いいながら腕を組みなおしたこいつはきっと今笑っているのだろう。
あの平和ボケした、屈託のない笑顔で。
前を向いて走るオレには見えなかったが、何故かそう感じたのだった。
***
「この子が・・・?」
「・・・随分と平和ボケした女だ」
静かになったと思えば、久遠は全体重を預けて寝入っていた。
そんなこいつの寝顔を見ながら、ペインは大方オレと似通ったイメージを語った。
傍にいる小南もまた然り。
それにしても、と小南が息をつく。
「アナタの背中でこんな安心しきった顔して眠れるなんて」
「・・・まったくだ」
それだけ異例ということだ、おぶりなおしながら呟いた言葉は、雨に消される。
「サソリが興味を持つのも頷けるな」
そう言ったペインの顔は、何故だか少し和んでいるように見えた。
そして、小南も。
・・・大犯罪者集団である"暁"が、聞いて呆れる。
平和ボケした顔を見るのは、こいつだけで十分だ。
「アジトに帰る。あとから収集をかけておけ」
「分かってる。・・・今度は起きてるときに会いたいものだな」
「・・・また来て、マダラ」
「フッ・・・それはオレに言ってるのか?それとも、」
もぞ、と背中にいる久遠が動いた。
長門、と呟かれた言葉にペインと小南は顔を見合わせる。
あの日のこいつの言葉を信じさせざるを得ない寝言だ。
もう、いちいち驚くのにも疲れてきてしまった。
「・・・また、連れて来い」
「気が向いたらな」
異空間忍術を使おうとして、ふと思い出す。
・・・本当に、忍術が効かないのは困ったものだ。
オレはため息をつきたくなる衝動を抑え、窓から飛び降りた。