嬉々とした表情であたしの手を引っ張る葉月くん。なんでそんな上機嫌なんだ。いや、彼が落ち込んでたりする姿って見たことないけどさぁ・・・
葉月くんの数歩後ろ、そしてあたしに並んで歩く怜くんが、同情の眼差しを向けてきた。言って怜くんだって結構乗り気なの知ってるからねあたしは!
うう・・・三年生の視線が痛い・・・
「はっるちゃーん!まっこちゃーん!」
「こんにちは、遙先輩に真琴先輩」
「こ、こんにちは・・・」
「あれ、渚に怜と・・・」
「久遠」
やっぱりさっきの聞き間違いじゃなかったあああああああああああ!遙先輩あたしのこと呼び捨てだああああああああああああ!
周りの視線が痛い。ぼそっと、「あの子、今朝七瀬くんと・・・」なんて声も聞こえる。穴があったら入りたい、ていうか教室に帰りたい。
固まって動かないあたしを無理矢理引っ張って、葉月くんは彼らの席まで移動する。
じっと遙先輩があたしを座ったまま見上げていて居心地が悪かった。な、なんなんだ本当に。
橘先輩がどこか嬉しそうに、「ハル、いつのまに楸さんと仲良くなってたの?」とにこにこ聞いている。違うんです誤解なんです、なんかあたしにもよくわからないんですけどって、今この場所まで引っ張られてきたのはこういう話をしに来たんじゃなかった!
あたしの手を持ったままの葉月くんの足を先輩達の見えない角度で軽く蹴る。
「そうそう!そのことなんだけどね!ねぇ久遠ちゃん」
「っは?」
こやつここであたしに振るか!
助けを求めようと怜くんを見るけど、彼は我関せずと言った感じで明後日の方を向いていた。せ、せっこ・・・!
「あ、そういえばハル、ちゃんと鯖のお礼言ったの?」
「ああ」
「あ、それに関してはその・・・すみませんでしたほんとに」
「・・・気にしなくていい」
今思い出しても恥ずかしい勘違いをしてたと思う、今朝のは・・・
なかなか本題に入らないあたしに葉月くんが痺れを切らしたのか、「単刀直入に聞いてもいいっ?」と遙先輩のほうに身を乗り出す。っ、ちょっと葉月くん手を持ったまま動いたらあたしまで前のめりに・・・!
「?なんだ」
「ハルちゃんは久遠ちゃんと付き合ってるの?」
「だっから違うって言ってるのに、遙先輩に迷惑だよ葉月くん!ごめんなさい先輩、なんか本人に確認取らないと気が済まないみたいで、」
「付き合ってない」
きっぱり。
表情を変えないまま言った遙先輩に、葉月くんはつまらなそうに唇を尖らせた。何故。
まぁとにかくこれで噂もそのうち消えるでしょう。ほっと胸をなでおろした時、続けざまに遙先輩が口を開いた。
「でも、俺は久遠が好きだ」
・・・・・・・・what?
しーんと静まり返った教室で、葉月くんから視線をはずした遙先輩があたしを見る。
葉月くんに握られたままの手をすごい力で解いて、彼は言った。
「久遠は鯖の女神だからな」
鯖の女神ってなんだ。