「ねぇねぇ久遠ちゃんっ」


ああ、厄介なのに捕まった。

今朝七瀬先輩に手を引かれたまま校門をくぐったあたしは、予想通りいろんな人(主に女子)に質問攻めにされた。そういう目で見られるのは先輩にとっても迷惑だろうに、と教室まで送って(?)くれた先輩を思いながら同情する。
昨日の今日であたしもまだ頭の整理が追いついてないのに。前の席の椅子を引いて机に突っ伏すあたしの髪の毛をいじるのは、葉月くんだ。
渋々顔を上げてみれば、案の定、彼の瞳は新しいおもちゃを見つけた子どものように爛々と輝いている。
あげる、と差し出されたイチゴオレを遠慮なく飲ませていただいていたら、タイミングよく葉月くんは話題を切り出してきた。


「ハルちゃんと付き合ってるって本当?」
「ぶっ!?」
「うわっ!?なんですか汚い!」
「げほげほうええ、ごめん怜くん」
「久遠ちゃんきたな〜い」
「貴様のせいじゃ!!」


あたしの前の席、つまり竜ヶ崎くん(長いから怜くんって呼んでる)の席をまるで自分の所のように使っていた渚くんが華麗に避けたせいで、あたしの口から噴射されたイチゴオレは彼の机にどっぱぁ。
けたけた笑ってるけど、顔が整ってたら何言っても許されるとか思うなよ!この小悪魔が!
ていうかこの数時間でどんだけ噂に尾ひれついてんだ!


「だって、朝一緒に手を繋いで登校してきてたってみんな言ってるし?」
「そうなんですか?遙先輩と貴女が仲良くしているイメージはないのですが・・・」


むむ、と眉間にしわを寄せてあたしを見てきた怜くんに首を横に振って答える。あたしも不思議でたまらんのだよ。故に何も分かってないし雷の速さで回っていった噂にもついていけてないです。誰か助けて。


「なにがどうしてこうなった・・・」
「こっちが聞いてるのに!あ、そうだじゃあもうハルちゃんに直接聞きにいってみようよ!」
「それが手っ取り早いですね。じゃあ昼休みにでも行きますか」
「そうしよそうしよ!あ、久遠ちゃんももちろん来るよね?」
「はぁ?」
「来るよね?」
「わかった!わかったからそんな顔近づけてこないで!」


可愛いくせに怖いんだよ葉月くんは!!

満足げな顔でうんうんと頷いた彼を軽く睨みながら、イチゴオレを拭いたせいで汚れたハンカチを洗ってこようと席を立つ。
「どっか行くの?」と首を傾げる葉月くんにハンカチをひらひら振りながら、あたしは教室を出た。

▲▽▲

「あ」
「あ」


水でハンカチを洗っていると、噂の元凶である七瀬先輩が居た。目があって数秒、びゅんと物凄い速さで走ってきた彼に驚きすぎて声が出ない。朝と同じように若干のけぞってしまった。

ほ、本当に不思議な人だ。


「こ、こんにちは」
「ああ」


そして本当に言葉数の少ない人だ。
なんだ、喋ることがないんならわざわざこっちまで来てくれなくたってよかったのに、と思いながら辺りを見渡すと、何人かの女子が頬を赤らめながらこっちを見ていた。やばい、また勘違いされて噂が大きくなっちゃう。
こんなの先輩にも迷惑かけちゃうし、とっととハンカチ洗って教室に帰ろう。


「久遠」


と、思ったのに。

え、今先輩なんて言った?久遠って言った?久遠ってあたしのことだよね?え?呼び捨て?苗字ならまだ分かるけど名前を呼び捨て?ええ!?

洗ったばかりで濡れているのを気にせずに、七瀬先輩はあたしの手を掴んでまた手のひらに何かを乗せた。
イワトビちゃんと同じ、木で作られた小さくて可愛い、これは・・・リボン・・・?


「さっき、作った」
「え、あ、」
「これもやる。イワトビちゃんにつけろ」
「は、はい」
「それから」
「は、はい?」
「俺のことは遙でいい」
「は、はい。・・・・え?」
「じゃあ」


少し、ほんのすこぉーし口端を上げて、満足げな表情で七瀬先輩・・・もとい、遙先輩は自分の教室に帰っていった。


「・・・・・・・・・・・・帰ろ」

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