そうか、今日は松岡の誕生日だったのか。
楽しそうにはしゃぐ葉月くんたちを遠くで眺めながら、その輪の中心にいる今日の主役の微笑んだ顔は、昔と変わっていなかった。
一瞬松岡じゃないかもって思ったけど、やっぱり松岡だ。隣を歩く彼をそっと見上げながら思う。
それにしても、かっこよくなったなぁ。


「誕生日だったんだ、今日。すごい楽しそうだったな」
「あいつら・・・まぁ主に渚が、パーティーするって聞かねぇんだよ」
「いいじゃん、愛されてるぅ」
「その言い方なんかキモいからやめてくんね?」
「あ、ひど」


些細な言い合い。懐かしい感覚に笑ってしまえば、松岡も少し笑っていた。
嬉しくなって、肘で軽く松岡の脇をつつく。「んだよ、」と言いながら仕返しをしてくるあたり、やっぱり松岡は松岡だ。
昔より愛想はなくなって、かっこよくなって、大人っぽくなっても、松岡凛のままだなぁ、なんて。

ほんと、


「かっこよくなったね、松岡」
「っ、は!?」
「かっこよくなったよ。一瞬誰かわかんなかったし」
「ばっ、おまっ・・・、易々とそういうこと言ってんじゃねぇよ」
「んー?本音だよ。きっと学校でもモテモテでしょ?」
「・・・男子校だし」
「あらもったいない」
「楸も、・・・」


私の苗字を呼んだきりもごもごと顔を伏せてしまった松岡。
なに?とその顔を下から覗き込めば、その真っ赤な頬に驚いた。え、どうしたの。
熱? 額に伸ばそうとした手を、彼の手に阻まれる。そのまま手首を掴まれて、残った沈黙。
居た堪れなくなって恐る恐る名を呼べば、顔を上げた松岡は消え入りそうな声で言った。


「・・・お前も、綺麗になった」
「え」


え、え、なんだこれ。
ぶわわわわ、と顔に集まってきた熱をごまかすように下を向く。形勢逆転だ。
今度は松岡が私の顔を覗きこんできた。近い!無駄に整った顔が近い!!


「お前、知らなかっただろ」
「? なにが・・・」
「俺昔はお前のこと好きだったんだぜ」
「っは!?」


さっきの非ではないくらいの熱が頬に集中する。
思わず松岡を凝視すれば、彼も私と同じように真っ赤な顔をしていた。


「・・・たぶん、今も」


俯きがちに続けられた言葉を嬉しいと思ってしまうってことは、きっと。


「った!誕生日、おめでとう・・・」
「・・・さんきゅ」


どちらからともなく絡んだ指。そのまま歩き出す。
きっとこの手の熱さが、答えだ。



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