小学校六年生で岩鳶に転校して、異性の割には結構仲良くなれた奴が一人いた。楸だ。
マイペースで他人に流されない、ぼーっとしてるけど芯の通った、そんな奴。
たった二ヶ月ちょいの仲ではあったけれど、他の奴に感じるものとはまた違う感情を、あいつに抱いていた。あいつは俺のこと、ただの友達としてしか見ていなかったようだけど。


「はっぴばーすでーとぅーゆー!」


イベント好きな渚に手を引っ張られ、やってきたのは和食を中心に営んでいる飲食店だった。
誕生日。祝われて嫌な奴らじゃないし、むしろ嬉しい。けれど、落ち着かないこの気持ち。
江の笑った顔の向こうにいるのは、時折こっちに視線を向ける楸のウェイトレス姿。久々に見たあいつは昔より大人っぽく、かつ美人になっていて驚いた。口を開けば何も変わっていないのに、ああ、時が経つってこういうもんなんだなと実感させられた。俺ももう十七なのだ。


「凛ちゃんたくさん食べてね!全部怜ちゃんのおごりだから!」
「聞いてないですよ渚くん!」
「いや、いいぜ怜。全部渚のおごりらしいし」
「そういうことなら」
「ええっ!?酷いよ凛ちゃん怜ちゃん〜」


自業自得だ、そう笑って渚のすねを軽く蹴ってやる。大袈裟に痛がった渚は、ハルの腕に額を押し付けて泣く真似をしていた。

刧刧

「5268円です」


レジを打つ楸の細い指を見つめる。
身なりを気にしだしたのはいつ頃からなんだろうか。少なくとも俺の知る頃の楸は自分の見た目なんてどうでもいいって感じの奴で、年頃の女子とは程遠い格好をしていた。
長すぎないように伸ばされた爪と、磨いているのだろうか。うっすらと光るそれは女子らしさを感じさせた。


「ご馳走様でした久遠ちゃん!また来るね〜」
「もう来なくていいよ。はしゃぐ君ら見てるとこっちが恥ずかしいから」
「お騒がせしてすみません」
「んーん、怜くんと江ちゃんはまた来てね」
「はい!」
「じゃあ、また明日、久遠ちゃん」
「・・・鯖、うまかった」
「うん。また明日」


ぞろぞろと店を出て行くあいつらの後を追おうとする。
けど、このままでいいのかなんて気持ちもある。そろっと振り返ってみれば、ばっちりと目が合った。
昔、仕舞っておいたはずの気持ちは、いとも簡単に溢れ出す。


「松岡」
「・・・おー、なに」
「忘れてないんならちゃんと声掛けてよね」
「わり」


なんか、改めてみると恥ずかしいもんがあって。
わざとらしく自分の髪の毛をくしゃっと握れば、楸は口元に手をあてて笑った。・・・なんでそんな、女性って感じになってんの。
変わってないはずなのに、やっぱり変わってる。


「松岡、今日空いてる?」
「・・・っ、なんで」
「なんか、久々に話したくなったから。あと三十分で終わるんだ、仕事」
「じゃあ、適当に時間潰して待っとく」
「ありがと」


ふわ、と笑った楸は厨房に入っていった。
・・・どうやってハルたちに伝えるか、俺が出てくるのを待ってる様子の外の奴らを見ながら、柄にもなく頬が緩んだ。

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