付き合うとか、彼氏彼女とか、恋人とか、そういう代名詞を使おうとは思わなかった。
ただ凛が好きで、凛もわたしを好きだと言ってくれたから、それで十分だって。
でも前より変わったことはたくさんある。

朝、一緒に学校まで行くようになったとか。
昼、一緒に弁当を食べるのが当たり前になったとか。
夜、凛の自主トレに毎日付き合うようになったとか。
・・・キスをしたり、ハグをしたり、見えない気持ちの境界線がなくなってできることを、した。
照れくさいし恥ずかしいけど、それ以上に嬉しかったり幸せだって感じたり、好きっていいことばかりじゃないけど、やっぱり。


「凛」
「ん」


私の何倍も大きな凛の手。その小指と薬指を握りながら、かわいい店を指差す。
すると凛はわたしの意図を察したのか、「あんな店男の俺が入ると違和感でしかねぇだろ・・・」と愚痴をこぼしつつも一緒についてきてくれた。
都会よりは少ないんだろうけど、休日はやっぱりいつもより人の数が多い。その中でドジなわたしが誰にもぶつからずにすいすいと歩けるのは、凛のおかげなのだ。


「凛、外で待ってる?」
「・・・・・・いや、ついてく」
「いいの?」
「おー」


離そうとした手を逆に握られて、思わず顔に熱が集まってしまった。
それに気づいているのかいないのか、たぶん気づいてるけど、気づかないふりをして凛はわたしを引っ張っていく。
大きくて広くて、頼もしい背中。ぶっきらぼうで泣き虫なのは変わらないけど、けど、夏のあの寂しそうな苦しそうな凛は、もうない。

女の子らしいネックレスや髪飾りが並ぶ店内を見渡しながら、凛は「お前らしいのいっぱいあるじゃん」と笑った。
わたしの好きな顔だ。


「これとか」
「そんなイチゴの髪飾りつけるほど子どもじゃないし」
「似合うぜ?」
「い、や」


似鳥君に、最近の二人はやわらかくて微笑ましいです、と言われた事を思い出した。
自分のことのように喜んでくれたときの彼は、本当に嬉しそうで、当のわたしが逆にさめた目で見てたくらいだ。・・・嬉しかったけれど。

隣で真剣に品物を見始めた凛は、何を考えているのかな。
わたしは柄にもない言葉を言えば、毎日が幸せでたまらないんだ。本当に、どうしようもなく、・・・いとおしいんだよ。


「久遠」
「っ・・・ん?」


いきなりこっちを向いた凛に若干戸惑いながらも返事する。
伸びてきた手に驚いて目を閉じれば、「なにしてんだ」と呆れた声が降ってきた。・・・だって、またなにかされると思ったから。


「指かせ、指。・・・・・薬指な」
「・・・・え」
「・・・・ん。ぴったりじゃねぇか。・・・将来は、このサイズで決まりだな」


もう、ほんと、ずるい。

口元を引き結んで、薬指に通された安物の指輪を見る。
これだけで十分って思ってしまうわたしは、やっぱり凛が好きで、それ以上の言葉が見つからないくらい好きで、・・・たまらない、のかもしれない。

口をついて出る言葉は可愛げのないものばかりだけど。


「この、ロマンチスト」
「悪ィかよ」
「・・・心臓に、悪いの」
「素直じゃねーな、まったく」


額を小突かれる。


「じゃ、次は俺の行きたい店な」
「また水着ー?」
「ったりめーだろ」
「何着買うの。普通の女子よりも長いもん、凛の買い物」
「若干履き心地が違うんだよ」
「遙みたいなこと言わないでよね・・・」


わたしの手をとって少し前を歩いていた凛が振り返る。
不機嫌そうな顔が近づいてきて、唇にふんわりとやわらかいものが触れた。

っやられた、不意打ち・・・!


「なんでハルの名前が出てくんだよ。これから俺と居るときにハルの名前出したら今のじゃすまさねーからな」
「・・・し、嫉妬」
「妬かねー奴なんていないだろ、好きな奴が他の男の名前出すって結構イライラするんだぜ」
「そう、直球で言うの、ほんと、やめて・・・」


わたしだって、凛が好きだ。

つい口をついて言ってしまった。顔が熱い。
そろっと凛を見上げると、わたしと同じように赤くなっている凛の顔。ああだめだ、もう。


「っ行くぞ」
「うん・・・」


再び手を引っ張られて歩き始める。
赤い耳を見上げながら、歩く。

きっとこれからも、隣には凛がいる。

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