「い、た、ちー!」


誰の声かなんて振り返らなくても分かった。
鞄に荷物を詰めながら教室の入り口を見れば、腕を引っ張られて嫌そうな顔をしたサソリとその腕を引っ張っている張本人の、久遠の姿。にこにこと、今日も満面の笑みだ。
一際ざわめきを増したクラス内の女子の視線は、サソリに釘付けだ。
前世では恐怖の対象でしかなかったというのに、本当に平和なものだな。・・・香水の匂いは嫌いだが。


「どうした?」


頭に手を置きながら訪ねると、依然嬉しそうな顔のまま、久遠は言った。


「放課後デートなるものしよ!高校生の醍醐味だよ!サソリさんも来てくれるって言ってるし三人でっ」
「お前が無理矢理ひっぱって来たんだろうが」
「じゃあ二人で行こう。サソリは先に帰れ」
「・・・・・・・・・・・・・・別に嫌じゃねぇからオレも行く」
「もうっ!サソリさんってばツンデごはっ・・・!」
「うるせぇ黙ってろ。行くならさっさと行くぞ」
「お前が今久遠を沈めたんだろう・・・」


本当に素直じゃないな。
思わず笑ってしまい、サソリの鋭い視線が飛んでくる。
廊下にうずくまって悶えている(よろこびで)久遠を起こし、先に歩き始めたサソリの後に続いた。


「ツンデレも度が過ぎるとダメですよサソリさん!暴力反対っ!けどもっと蹴ってほしい!」
「言ってることが矛盾してんだよお前は」


もっともな言い分だ。
かわいらしく頬を膨らませた久遠のそれを人差し指でつつけば、ぷしゅ、と空気が抜けた。
ばっと勢いよくオレを見上げた久遠に嫌な予感がして思わず数歩離れるが、


「今のすっごい萌えた!!指つんつん!!」
「っ・・・!」


ばっと両手を広げて飛びついてきたこいつを避けきれず、腰に巻きついた細い腕の感触に思わずため息を漏らした。振り返ったサソリの視線も一層鋭くなる。


「久遠、離れろ。目立つだろう」
「いーやーだーあ!もうくっついたまま行こうよ!」
「・・・・おい久遠。くっつくならオレにくっつけ。イタチが嫌がってるだろうが」
「えっ!?くっついてもいいんですか!もちろん行きますよわぁーい、む!?」


・・・・・・・・・・・、
思わず無意識のうちに駆け出そうとした久遠の肩を掴んで引き止めてしまった。
ますます鋭くなったサソリの視線。・・・しょうがない、オレだってなんだかんだ言いながらも満更でもないのだ。


「・・・迷惑なんだよなぁイタチ?そいつにくっつかれるのは」
「・・・・・いや、別にそうでもないが」
「あ?目立つとかどうとか言ってたろうが」
「目立つから抱きつくなら外で、と言おうとしていただけだ」


我ながら滅茶苦茶な言い訳だ。
サソリもオレの本心を知ってか、視線はするどいまま。
挟まれた久遠だけが、不思議そうに火花を散らすオレ達を見上げていた。・・・変なところで鈍い奴だ。

馬鹿らしいな。
そう思ったのはサソリも同じようで、小さくため息をつきゆっくりと歩き始めた。


「えっ、ちょっと待ってよー!プリクラ撮りましょ、プリクラ!」
「最近のは目ん玉でかくなるし気持ち悪ィから却下」
「えーーーーーー!」


いいじゃないですかぁ、とオレの腕からサソリの腕に絡みに行った久遠の後姿を見つめる。
鞄を背負いなおして、オレも二人に並んだ。

今日も平和だ。

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