「おい久遠!!」


今日も屋内プールに凛先輩の怒号が飛んでいる。
僕もそろそろ慣れるべきなんだろうけど、少し肩を揺らして声のした方を振り向いた。呼ばれた久遠さんは、しかめっ面をしながら人一人簡単に殺せそうな目をした凛先輩の元へ。
隣にいた同学年の部員も、その様子を固唾を呑んで見守っていた。


「てめーなんだこのうっすい味!こないだちゃんと教えただろうが」
「ちゃんと凛に言われたとうりに粉の量調節したし!凛の舌がおかしいんじゃないの」
「馬鹿、俺の舌のせいにすんな。・・・ったくちょっと成長したと思ったら」
「・・・悪かったですね不器用で!」


あ、また始まった。
隣にいた部員と目を合わせて肩を竦める。

最近彼らはやっと想いが通じたらしい。これは久遠さんに聞いたことだ。凛先輩には内緒にしてほしいって言われたけど、僕は嬉しくてたまらなくて思わずランニングから帰ってきた先輩に飛びつきそうになるくらいだった。
だけど付き合うとか、そういう結論には至らなかったらしい。なんとなく、二人らしいと思う。どこまでも型にはまらない人たちだなぁ。
別に、好きあってるからと言って付き合う必要は僕も感じない。本人たちがいいのなら、いいのだ。

物思いにふけっていると、御子柴部長にぺしんと頭を叩かれた。


「った!あ、部長・・・」
「なにボーっとしてんだ似鳥。次のメニュー始めるぞー」
「は、はいっ!すみません!・・・って、あれ?久遠さんは・・・凛先輩も、どこに?」
「あいつらはもっかいスポドリ作ってくるってよ。ったく、見てて体中がかゆくなってくるな」
「凛先輩、今日も怒ってましたね・・・」
「・・・ま、怒鳴るだけじゃなくて教えてやれるってのが松岡のいいところだな」
「そうですね」


不器用だけど優しい人だ、凛先輩も、久遠さんも。
部長に背中を押されて水中に潜る。

いつもと変わらないように見えて、少し違う。目に見えて変わったことはないけど、例えばそう、雰囲気とか。
感じ取れるようになったってことは、僕も彼らと仲良しだと自負してもいいのだろうか。

しかめっ面の二人を思い出して、少し笑ってしまった。

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