「お前、家族がいたっつったな」
傀儡を調教していたサソリさんが、不意にそんなことを言った。
隣でそれを眺めていたあたしは、本当に唐突な問いに少し驚いてしまった。
いつか、ホームシックで落ち込んでいたとき、そんな話をしたことがある気がする。いつだったっけ?と思い出しながら頷いた。
「家族っていっても、兄だけでしたけど!」
「・・・親はいなかったのか?」
「覚えてないですねー、兄はもしかしたら覚えてたかもしれませんけど・・・って急にどうしたんですかサソリさん!あたしのすべてを知りたいんですか!捧げますよあたしなんかの過去なんていくらでもサソリさんに捧げま、む」
「そんなんじゃねーから黙れうるさい」
「サソリはんのにほひ・・・!!」
腕で口を塞がれたけどそんなの逆効果だ!すげー良い匂い!傀儡なのに良い匂いとかサソリさんらびゅ!!
気味悪げな表情ですばやく離れていった腕を寂しく思いながら、お兄ちゃんのことを思い出す。
あの人もサソリさんと同じような髪型・色だった。
不器用な優しさをくれた。親のいないさみしさを感じたことがないのは、このあたしの性格とお兄ちゃんがいてこそだ。
黙ってしまったあたしを気遣ってか、頭にサソリさんの手が乗る。
我に返って彼を見れば、同情の色こそ映してないけどなんとも言えない感じのサソリさんの瞳。
「お前はオレが拾ったんだからな。いつかも言ったが今更帰れると思うなよ」
「思ってませんしあたしは一生サソリさんたちについていきますから!」
「・・・別に、思い出を捨てろと言ってるわけじゃねぇ」
「え・・・」
「・・・お前の兄は、どんなだったんだ?」
いつになく優しい瞳に、思わず萌えだとか好きだとか、日常的に言ってる言葉すら出ずに息を止めてしまった。
家族の話は、嫌いだと思ってた。
待つのも待たせるのも嫌いなサソリさんが、待っても待っても帰ってこなかった家族の話をするなんて。
嬉しさ半分、そして寂しさ半分。
お兄ちゃんの背中を思い出しながら、かみ締めるように言葉を紡ぐ。
「サソリさんみたいな人でした」
「・・・は?オレみたいなって、そりゃお前ろくな人間じゃねぇな」
「何言ってるんですか!サソリさんは最高ですよ!!」
「・・・そうかよ」
ふいと視線を逸らして傀儡をいじる手を再開したサソリさんの顔をわざとらしく覗きこむ。
すると、盛大に嫌な顔をされた。うーふーふー、そんな顔もきゃわうぃ!!
「なんでいきなり聞いてきたんですかー?」
なんとなく確信はしてる。
こんな異端な存在のあたしを気味悪がることなく、真実を知った今でもよくしてくれるのは、少なくともサソリさんの内側に居れてるってことだ。・・・たぶん。たまに本気で殺されそうにはなるけれど。
「・・・お前のことを知りたいと思ったからだ」
悪いか、と続けられるはずだった言葉を遮って、サソリさんに抱きつく。
「離せ馬鹿」
「もうサソリさん大好きです!愛してます!ラブユー!!」
「分かったから離せってんだ」
お兄ちゃん、あたしは元気だよ。
そっちの久遠は死んじゃってるけど、元気だよ。たくさんの大切な人がいるんだ。守りたいんだ。もうそっちには戻れないけど、お兄ちゃんも元気でね。
あなたの後姿がゆうひにやけてまぶしすぎたの
微笑む彼が見えた気がした