「・・・久遠」
「・・・・・・・・・・・・」
「おーい、久遠?ほんとに何があったの?」
なにかあると逃亡癖のあるわたしが転がり込んだのは、遙の家だった。
心配そうに眉尻を下げる真琴の表情が腕の間から垣間見える。転がり込んだのはいいけど、わたしには事情を話す勇気も気力もなかった。
ふたりとも、わたしが泣いてしまったのには気づいているのだろうから、こんなに心配してくれてるのに。
こうやって周りに迷惑ばかりかける自分が嫌でたまらない。
成長なんて、できてないじゃないか。
驚いた凛の顔が浮かんで、また目の前がぼやけてきた。
「おい、久遠」
「・・・・・・・・・・」
「久遠ー?もう、ちゃんと言ってくれないと俺たちどうしようもないよ?」
「・・・・・・・っ、」
「・・・泣いてるのか?」
遙の低い声が聞こえた。
瞬間、何か温かいものに包まれる。考えなくてもわかった。これは、昔から知っている。遙の香りだ。
「泣くな久遠」
「・・・っ、・・・!」
「えっ、泣いてるの?どうしたの?久遠、俺たちにも言えないの?」
ちがう、ちがうんだよ。
自分が情けなくてたまらないの。抱きしめてくれた遙の服を握り締める。
もうやだ。どうやったら伝わるんだろう。もしかしたら伝えられないかもしれない。嫌われてるって、疑問が確信になっちゃったらどうしよう。
わたし、凛が好きだよ。
「り、がっ・・・!」
「・・・凛?凛がどうかしたのか?」
「わたっ、し、・・・りんが、すき、なの・・・っ」
「・・・・・・・」
大きな手が頭に乗る。
これも、考えなくてもわかった。昔からこうやってわたしを励ましてくれた真琴の手は、いつだって温かい。
背中に回った遙の腕に力が込められる。
「久遠」
背中に回っていた手が頬に移動して、半ば無理やり顔を上げさせられた。
真剣な瞳をした遙と真琴が、わたしを見ている。
「それは、俺たちに向けて言う言葉じゃないでしょ?」
「何があったか知らない。けど、その想いはは凛に伝えろ」
「・・・!」
「久遠ならちゃんと、できるよね?」
真琴が優しく、わたしの頭を撫でた。
遙も、目にたまっていた涙をすくってくれた。
大事なこと、忘れてた。
この想いを伝える前に、諦めるところだった。
もう諦めないって、凛と約束したんだった。伝えないと。好き、凛。好きだよって。
・・・届かなくても。
視線を逸らされたときの、ちくっとした痛みが胸を刺す。
・・・でも。
わたしを後押ししてくれた人を、裏切ることはしたくない。わたしに大事なことを教えてくれた凛だからこそ、伝えたい。
ピンポーン
玄関のチャイムが聞こえて、何故かわたしの胸は騒ぎ出した。