それは些細な出来事だった。
ジャンとクオンが喧嘩するのは別段珍しい光景ではない。むしろ喧嘩しないで仲良くしているほうがおかしいくらいである。が、今回はどうやら度がすぎるものだったようで。


「もー知らん!ジャンなんか知らん!死ね!!」
「・・・なにがあったんだ?」


憤慨しているクオンの、たまたま傍にいてしまったエレンは嫌々ながらも尋ねてみた。
最近想いが通じ合い、喧嘩しても夫婦喧嘩やらなんやら騒がれていたジャンとクオンだったが、傍らでエレンは失恋したばかりなのに。運命とは皮肉なものである。
想い人の恋愛相談ほど気が重いものはないだろう。
エレンの気持ちを知っているアルミンは、いたわりの目で彼を見つめた。

問われたクオンは、すごい勢いでエレンの両肩を掴む。そのあまりの勢いに、エレンだけでなく見守っていたアルミンまでもが驚いて少し仰け反った。


「聞いてくれるかエレン!」
「お、おう・・・」
「ジャンのやつ、たびたびあたしに向かって女の子らしくしろだの女の子らしくしろだの女の子らしくしろだの言ってくるくせによ!?」
「声でけーよクオン・・・あと言葉おかしいぞ」
「いざ女の子らしい口調で喋ってみたら気持ち悪ぃって一言吐き出しやがったぜあいつ!まじ死ね!」


聞いてないな。
エレンは胸中でため息をついてアルミンに視線を送る。アルミンは苦笑するだけで、首を横に振った。

そしてクオンが怒っている理由のなんともくだらないこと。
それでも憎めないのが、惚れた弱みというやつか。エレンはこの状況下にも関わらず、ジャンに対して少しの優越感を感じてしまう。


「ためしにオレに向かって喋ってみろよ、女の子らしくさ」
「やだ。エレンもぜってー気持ち悪いとか言うもん」
「言わねーよ」
「・・・ほんとか?」
「約束する」


どんなものか、とアルミンも身を乗り出す。
するとクオンは広げていた足をすっと寄せ、少し肩をすくめて眉尻を下げた。


「・・・エレン」
「・・・っ!!」


効果は抜群である。
即座に赤くなり固まったエレンに、クオンは珍しく嘆いた。


「固まるくらい気持ち悪いんじゃねーか!くそ!!」
「ちっちがっ、これは違う!」
「なんだよ言い訳なんざ聞きたくねぇぞ!」
「そのっ、可愛かったからだ!でもそれこの先絶対ぇやったら駄目だぞ!」
「え?そう?可愛かった?うわエレン神じゃね?ジャンと大違いだ」
「何が大違いだって?」
「ジャン!」


クオンの後ろから現れ彼女の頬を思いっきり摘んだジャンは、まだ赤みの残っているエレンの顔を見て小さく舌打ちした。エレンも少し眉根を寄せる。


「いひぇえ!あにすんだ!」
「お前が変なことしてっからだろ!アレを他のやつの前でしたらダメだって言ったの忘れたのかこのドアホ!」
「エレンはジャンと違って可愛いってほめてくれたぞ!」
「だからすんなっつってんだこの鈍感が!!」
「・・・・・・・・・・アルミン」
「・・・・・・・・・・うん、かえろっか、エレン」


リア充爆発しろ。

レディーファースト講座
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -