「むっくん先輩!」
「うわ出た」


廊下の角から顔を覗かせた久遠ちんに、思わず本音が口からぽろり。
だけどそんなオレにももう慣れているのか、意に介した様子もなく久遠ちんは駆け寄ってきた。
その両手には可愛くラッピングされた手作りのお菓子。オレにはラッピングの可愛さとか手作りとかさほど重要じゃなくて、美味しくてお腹が満たされればそれでいいんだけど。この子は飽きることなく毎回毎回、凝ったデザインのそれを手渡してくる。・・・ほんと、懲りない子。

今日もまた得意げに笑って、久遠ちんはそれを差し出してきた。かすかに、良い匂いがする。


「今日はカップケーキです!まだ胃袋掴まれた感覚ないですか?」
「わーいカップケーキー」
「ちょっと!スルーしてお菓子だけとらないでくださいよ!」
「早く食べたいんだけど」
「質問に答えてくださいっ」


オレ相手によくもまぁ、こんなにも反抗的な態度をとれるもんだと思う。
他の子はオレの身長に対してまずビビって、ちょっと声のトーンを落とせば逃げていくから。
こんなに屈しない子、ほんと珍しいよねー。

久遠ちんの言葉を無視して小さな手からカップケーキを取り上げる。


「あっ、ちょっと!」


ぴょんぴょん。
高いところまで手を上げれば、この子が跳ねたって全然届かない。それをわかってわざとやってるオレのいじわる加減は、自覚してる。

アレだよね。
好きな子ほどなんちゃらってやつだよね。
胃袋を掴むとかそんな話じゃないけど、そろそろ気づいてくれたっていいと思うんだけど。


「もー!ちゃんと感想くださいね、むっくん先輩!」
「まずかったって?」
「それは傷つくからやです」


少し頭を垂れて俯いた久遠ちんの頭を、できるだけ優しく撫でてあげる。
いつもはしないけど、サービスね。驚いた顔でオレを見た久遠ちんは、満面の笑みを浮かべた。・・・別にどきっとしたとかじゃない。・・・表情豊かすぎてついてけねーし。


「・・・・・また作ってね」
「あったりまえです!先輩の胃袋掴む日まで何回でも作ります!」
「掴んでからは?」
「掴んでからも、・・・・え?」


悔しいから、まだ言ってやんないけど。

カップケーキ飛行船
ふわふわふわふわ
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