「君の父親は、随分と荒れてるようだね」


放課後、家に帰る気にもなれなくてぼーっと机に座っていたら、頭上から冷たい声が聞こえた。
誰に言ってるのかわからないまま、ゆっくりと顔を上げるとヘテロクロミアの相貌と目が合う。彼の名前は知っている。赤司征十郎君だ。私と同じで、他県からこの京都の学校まで越してきた有名なバスケ選手。

どうやら、先程の彼の言葉は私に向けて放たれたものらしい。
手首についた青痣をとっさに隠した。


「勝手ながら調べさせてもらったよ。随分理不尽な父親を持ったものだな」
「な、にを・・・」
「楸久遠」
「っい・・・!」


昨日つけられたばかりの傷の部分を握られ、思わず顔をしかめる。
すると彼はきゅっと眉根を寄せて、そのまま私を椅子から立ち上がらせた。

何が起こってるのか、わからない。
今まで私は彼と話したことなんてなかったのに。

近い距離に驚きばかりが募っていく。ヘテロクロミアの瞳が細められて、何故か目の前にいる赤司君とはまた違う赤司君が見えた気がして空いている手で目をこする。


「朝昼晩、十分な食事を用意しよう」
「・・・え?」
「寝る場所も、風呂も提供する」
「あの、何を・・・」
「最低限以上の生活を送れるように、もう準備は整っている。久遠」
「っはい・・・」


名前を呼ばれて、思わず返事をしてしまえば、赤司君はふっと目を和らげて私の後頭部に手を回して抱き寄せた。・・・抱き寄せた?


「え」
「もう大丈夫だ」
「・・・え、」
「ずっと前からお前を見ていたよ。痛いくせにやたら我慢している久遠をね」
「っ・・・!」


なんでだろう、すごく懐かしくて、泣きたい気分だ。
もう涙なんて枯れたはずなのに、とても。
髪の毛をすく赤司くんの手つきはとても優しくて、視界が滲む。

ねぇ、わたし、ずっと苦しかったよ。


「オレのところにおいで」


***


『そのきずはなんだ?久遠』
『これはね、かいだんでこけちゃったの』
『・・・そう』
『いたくないよ、へいき!』


無理に笑う久遠が嫌いだった。
でも、その頃のオレも久遠もまだ子どもで。大人のすることに対抗しようとしても、なす術なんてなかった。

だから、オレは。


『まってろ、いつかぜったいおれが』


今夜あなたは素敵な夜に出会うでしょう
むかえにいくから
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