最近、楸さんの後ろの席になった僕は、彼女と彼女を取り巻くキセキの世代と呼ばれる有名な選手たちの動向を観察することがマイブームである。

例えば朝。
いつも学校の始まる十分前に来る彼女と二分前に来てちょっとの間顔を覗かせていく青峰君は、最近付き合いだした模様。
二年の時同じクラスだったことは、風の噂で知っていた。有名な彼らと一緒にいると、たとえどんなに地味だった子でも光の速さでみんなの耳に入るのだ。根も葉もない噂が流れてしまうことだってざらだ。けど、彼女はそんな噂のことさえ耳に入ってないようだった。

さて、少し話が逸れてしまった。
朝、教室に入ってきた彼女は自分の机に鞄を置いて僕に一言声をかける。律儀な人だ。軽く会釈を返して、本を読むふりをした。青峰君の性格はよくわからないけど、普段雑な態度をとる彼でも楸さんへは微妙にやさしくなるのだから、他の男と話している姿を見るのは癪に触るってもんだろう。
あ、噂をすればなんとやらって、青峰君の登場である。


「あ、青峰おはよ」
「おー」
「寝癖ついてるよ」
「どこに」
「しゃがんで、あんたデカすぎ」
「ん」


ちら、本から視線をあげて二人を盗み見る。見せびらかしているわけではないけど、彼らはいつもナチュラルにいちゃいちゃしている。
他の人はどうか知らないけど、僕はこのカップルが好きだ。見てて微笑ましい。言うなれば、母親と息子みたいな・・・や、それじゃ付き合えない、禁断の恋だ。

思考を戻して再び彼らを盗み見る。
すると、青峰君より少し遅れてやってきた紫原君が顔を出した。
三年生になって、彼女は青峰君とは別のクラス、そして紫原君と同じクラスになったのだ。
僕は彼女が居たことないからよくわからないけど、紫原君のスキンシップは結構なものだから、青峰君も嫉妬してるんじゃないだろうか。


「久遠ちんおはよ〜」
「あ、あっちんおはよ」


あ、青峰君が顔しかめた。やっぱり嫉妬しちゃうもんなんだ。


「んだよ紫原、お前オレには挨拶なしかよ」
「え、してほしかった?なら早く言ってよねー」
「してほしいわけでもねぇけど」
「じゃあ別にいーじゃん」
「なんかムカつくんだよ」
「人はそれを嫉妬って言うんだよー」
「・・・てめぇ」
「はいはいそこまで、青峰早く教室戻んないと遅刻扱いになっちゃうよ」
「・・・チッ」


渋々といった様子で、青峰君が薄っぺらい鞄を持ち直す。
あまり機嫌はよろしくないみたいだ。僕も本をしまって、視線を彼らから教卓に移した。

***

昼。
彼女の机は毎日日替わり定食のようにカラフルな頭が顔を覗かせる。
今日は佐藤さんと緑間君と黄瀬君がやってきた。聞こえてきた会話で推測する限り、青峰君は小テストの追試らしい。頭が悪いことでも、彼は有名だ。


「うわっ、その卵焼きおいしそうっスね!ちょーだい!」


黄瀬君は、キセキと彼女の前だけでしか見せない笑みを覗かせていた。男の僕から見ても眩しい。シャラシャラしている。
普段仮面を被ってるような彼がここまで懐いてしまうのは、彼女の雰囲気がそうさせるのだろう。なんていうか、相手に見返りを求めないというか。関わりやすいというか。


「別にいいけど、自分の箸で取ってね」
「え、久遠ちゃんって間接キスとか気にするタイプっスか?」
「間接っ・・・!?」


間接キスという単語ごときで顔を真っ赤に染めてクリスマスカラーみたいになってしまった緑間君。
僕の推測では、彼は彼女のことが好きなのだと思う。分からないけど。青峰君と一緒にいる彼女のことを見る目が、たまに憂えているから。
それでもお互い割り切って、仲良くできてるんだからすごいよなぁ。


「別に気にしないけど、なんか悪い事した気分になるから。・・・珍太郎ウブすぎでしょ」
「クリスマスカラーじゃん緑間くん」
「ぶっは!クリスマスカラー!ひぃ!」
「笑うな黄瀬!お前が変なことを言うから悪いのだろう!」


僕が心内で思ったことを口に出した佐藤さんに、それに吹き出す黄瀬君に、憤慨する緑間君。
そして、呆れたような、楽しそうな表情の楸さん。

彼らはいつも楽しそうだ。

***


「あれ、征くんに子テツじゃん」


放課後。
廊下を通りかかった赤司君と黒子君に声をかけた彼女は、小さく手を振った。
彼女に気づいた二人は口元に笑みを浮かべて教室の中に入ってきた。


「なにしてるの?青峰もあっちんも喧嘩しながら部活に行ったよ」
「委員会の都合で少し遅れてたんです」
「オレは監督と話してたんだ。久遠は今日も青峰の部活を待つのかい?」
「そのつもり!」
「最近は特に冷え込んでますから、暖房切れた時にはちゃんと防寒具つけないと駄目ですよ」
「黒子の言うとおりだ。また風邪を引かれたから困るからな」
「わかってるって。親か!」


苦笑した彼女を、優しい目で見た二人。
ふと思いついたかのような顔で、赤司君が提案した。


「暖房も切れて寒くなるなら、体育館に来い。一人で待つよりもいいだろう?」
「そうですよ、行きましょう久遠さん」
「え、あー・・・そうだね」


机の上にあった荷物を持った彼女は、少し早足で歩き始めた彼らの背を追っていった。
そして、振り返って言う。


「また明日!ばいばい!」
「あ、うん。また明日」


誰に対しても平等に接する。
当たり前のようで、当たり前にできないことを、彼女はやってのける。
だからこそ、彼らはあんなにも彼女を大切にするのだろう。

さあ、僕も帰ろうか。
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