「で、なにがあったんだ今度は」


俺を呆れた風な相貌で見下ろした部長は、久遠のいない屋内プールを見渡しながら言った。
なにが、ととぼけても無駄なことはわかっている。あいつが部活を休んだのは、もしかしなくても俺のせいだ。

とぼけても無駄。
でも、部長に言うのもそれはそれで嫌だ。ていうか言えるわけねぇし。
久遠が寝てる間に魔が差してキスしちまって、勝手に気まずくなって、距離のとり方わかんなくなってたらあいつを泣かしちまったなんて。
・・・あー、かっこわり。


「そういやなぁ、朝楸に会ったんだが・・・なんでか知らんが目が赤くなってたんだ」
「・・・っ」
「なんでだろうなぁ。ドラマでも見て泣いちまったのか、それとも」
「部長」
「お?」


この人は、大雑把で掴めねぇ性格してるけど、やっぱり部長になる器のある人間だ。
背中を押すことも、必要に応じて突き放すことも、嫌われたってやってのける。

真っ直ぐに部長の目を見れば、わかっているとでも言いたげな瞳が返ってきた。


「泣かせるなって言っただろうが」
「・・・はい」
「約束は守れ。どうせ楸の行く先の検討はついてるんだろ?」
「すみません。行ってきます」


背中を向けて、走り出す。
距離のとり方に戸惑ったままでも、それでも、俺はお前にちゃんと伝えないといけねぇことがある。

誤って、許されない領域まで踏み込んでしまいそうで怖かった。
でも、そのことで久遠を傷つけた。もう、迷ってたら駄目だ。俺は、お前が。

寝ている久遠に向けて吐き出した言葉が、胸中を占める。

好きだ。好きだ、好きだ。
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