「サソリさん!!」
満面の笑みで、あいつが駆け寄ってくる。
久遠のこの笑顔は何かとんでもなく気持ちの悪いことを考えているときのものだ。
無意識のうちに身構えながらもわざわざ相手をしてやるところ、オレもだいぶこいつに甘い。・・・くそ、やってらんねぇ。
「なんだよ、・・・?」
「どうですかこれ!」
「・・・は?」
目前に、久遠の細い人差し指が掲げられる。ただいつもと違うのは、その指が寒さのせいか切れて少量の血がにじんでいるということ。
・・・血ぃ流してなんでこいつは笑ってんだよ、マジで気持ち悪ぃな。
引いているのを隠さずに、露骨に顔をしかめれば久遠はますますうれしそうに笑った。・・・なに企んでやがる。
「痛そうですか?痛そうですよね?」
「別に」
「痛そうですよね!?」
「うるせぇひっつくな血がつくだろうが!」
「サソリさんは自分の服が汚れるのとあたしの指の傷を癒すのとどっちが大切なんですかぁ!」
「んなの考えなくてもわかんだろ」
「あたしですね」
「お前ポジティブすぎて嫌いだ」
それがあたしの取り柄ですもん、そう言いながら腕を絡められる。
結局いつもどおり、くっついてくるだけで特に何をしてくるわけでもないのか。
安堵のため息を吐きそうになったとき、久遠は言った。
「サソリさんが痛いの痛いのとんでけってしてくれたら、こんなかすり傷すぐに治ると思うんですよね!!」
「てめぇの鼻息荒い理由はそれか。言うわけねぇだろそんなこと」
「そこをなんとか!!」
「土下座してまで懇願することでもねぇだろうが気持ち悪い・・・」
「え!?言ってくれるんですか!?」
「それとこれとは話が別だ。絶対言わねぇ」
「そんなぁぁああ」
だが、まぁ、そうだな。
にやりと口角を上げて、こいつの細い手首を掴む。
一瞬硬直した久遠は、それも本当に一瞬で、嬉しそうに「なんですかなんですかっ?」と顔を寄せてくる。
「試作品の薬を塗ってやってもいいぜ?」
「それ絶対毒薬ですよね!!笑顔まぶしいですけど死ぬのはいやです!」
「まぁそう言うな」
「サソリさんが珍しく攻めに回ってくれてるのに命の危機を感じて素直に萌えれないつらい」
相変わらず、口の回りが早い奴だ。
こいつの存在がもはや当たり前になりつつある暁で、今日もまたうるさいくらいの高い声がアジトに響いた。
痛いの痛いのとんでゆけ
悪くない。