・・・なにがどうして、こうなったんだ。
すぐ目の前に、安心しきった表情で眠る久遠がいて驚きの声も出ない。
しかも俺の腕はしっかりと久遠を抱きこんでいる。・・・マジで今の状況が理解できねぇ。
恐る恐るこいつの背中に回っている自分の手をどけると、少し身じろぎをした久遠は寒そうに体を丸めて額を俺の胸元にくっつけてきた。

・・・っ、勘弁しろよ・・・

久遠の手を握って壁にもたれていたら、いつの間にか寝てしまっていたのは分かる。
そこから、どうして、こうなったんだ。俺こいつに何もしてないよな?
てかこいつなんでベッドからここに来てんだ。それに俺はなんでこいつのこと抱きしめてんだ。
男子寮に入ることになった時、監視役を買って出たのは俺なのに・・・
いつまで経っても帰ってこない俺に似鳥は何を思っただろうか。そう考えると、申し訳ない気もする。

大分落ち着いてきた心臓。
ゆっくりと起き上がって時計を見れば、時刻は六時半を指していた。今日が休日で良かった。
いつもどおり部活は行われるが、学校があるよりマシだ。
それより久遠の熱は、ちゃんと引いているのだろうか。


「・・・」


確認のために、すぅすぅと寝息を立てる久遠の前髪を掻き分けて額に手を当てる。ぬりぃ。どうやら熱は下がったようだ。
小さく安堵のため息をつく。無意識に久遠の髪の毛に触れて、咄嗟に手を引っ込めた。
なにやってんだ、俺は。

前々から自覚済みの想いとは言え、こいつといると自分がおかしくなってしまったような錯覚に陥る。というより、おかしくなってる、確実に。
閉ざされている目。長い睫。形の良い唇。少し赤い頬。僅かに見えるうなじ。
すべてが俺の心臓をかき乱すのには十分な要素で。・・・久遠だからこそ、こんな風に心臓が暴れるのだ。

ばっかじゃねぇの。
ほんとに、何してんだ俺。

咄嗟に引っ込めてしまった手をもう一度伸ばして、久遠の頬に触れる。

止めろ、止めろ、

心が言う。

でも、今なら、

もう一方でも、心が言う。


「―――・・・久遠」


愛おしくて、苦しくて、自分が自分じゃないみたいに感じるくらい、お前のことが。


「・・・好きだ」


止められない。

上半身を丸めて、眠ったままの久遠の唇に自分の唇で軽く触れる。
なぁ、なんで俺の腕の中で、そんな安心しきった顔で眠れるんだよ。
そんな顔されたら、期待しかできねぇだろ。

唇を、手の甲で拭う。この、臆病者。
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