冷たい両手をこすり合わせて、葉のない寒そうな木を見上げる。
冬は苦手だ。日が落ちるのがはやいしから、部活をしている身としては帰る時間に真っ暗なのもどことなく怖い。
持ち運べるこたつがあればいいのにな、なんて思うこともしばしばだ。

月明かりを受けてぼんやりと立つ桜の木を見上げている理由は、特に無い。
ここにいればなんとなく、彼に会えるかもしれないという、浅はかな考えだ。
まだ、体育館の光は消えない。努力家な彼のことだ。ギリギリまで自主練しているに違いない。
そろそろ感覚のなくなってきた手をポケットの中につっこむ。すると、後ろから足音が聞こえて思わず心臓が高鳴った。
体育館を見る。まだ明かりはついている。なら、きっとこれは彼じゃない誰か。
ちら、と振り返れば、何故かそこに居たのは彼だった。驚きだ。

彼、緑間くんも驚いたようで、目を見開いて私を見ている。
そして少し呆れた風にため息をついた。怒られる、かな。弁解しようと口を開く前に、大股で歩いてきた緑間くんにポケットにつっこんでいた手を握られた。
運動していた彼の手は、私の倍暖かい。


「馬鹿か」
「ごめんなさい」
「遅くなるから帰っておけと言ったはずなのだよ」
「だって」
「言い訳はいらん。帰るぞ」


そのまま歩き出した彼に引っ張られるようにして私も足を動かした。

寒かったけど、心はぽかぽかと温かい。
待っていて、よかった。たとえこの行為で私が風邪を引いてしまったとしても、後悔なんてできるはずがない。
小走りで緑間くんの隣に並ぶ。見上げて、綺麗な横顔を見つめれば、視線に気づいたのか彼が私の方を見て、眉根を寄せて、もう一度「馬鹿」と呟いた。


「最後まで残らなかったの?」
「今日はなんとなく、先に帰ろうと思った。・・・そうしておいて正解だったようだが」
「凍え死ぬ前に来てくれてよかった」
「そんなつまらない冗談なんて聞きたくないな」
「機嫌直して、緑間くん」
「・・・次やったら、許さんぞ」
「はい」


張り詰めていた緊張感がふっと和らいだ。
目を合わせたまま、少し口角を上げた緑間くんに私も笑う。

繋がれたままの私の冷たい手が、徐々に緑間くんの体温を分かち合うように、温かくなっていった。
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