すごく、とんでもなく、本当に、馬鹿じゃないの。
起きた時右手に感じたぬくもり。視線を滑らした先には、壁にもたれて眠る凛。思わず大声を上げそうになった。
風邪を引くととんでもなく変な行動に出てしまうのは、わたしの昔からの癖だった。
無性に寂しくなるのだ。熱のせいじゃなく、恥ずかしさで顔が熱くなってきた。
おぼろけながらもちゃんと覚えてる。わたしが、凛に手を握ってほしいと頼み込んだのだ。

ほんとに、なにやってんのわたし。

起こさないようにベッドから降りて、そっと凛の顔を覗きこむ。
寝るまで傍にいるって、言ってくれた。寝るまでどころか、寝てからも傍にいてくれた。・・・凛も、寝ちゃってるけど。
繋がれたままの手が、熱を持つ。
凛はわたしのこと馬鹿って言うけど、凛も大概だと思う。


「凛、風邪引くよ?」


凛が起きてたらきっと、お前が言うな馬鹿なんて言って額を小突かれそうだ。
安易に想像できてしまって少し笑える。

でも、笑い事じゃない。
本当に風邪を引かれたら困るから、起こして自分の部屋に帰ってもらわないと。
手を伸ばして凛の肩を揺すれば、眉根を寄せた凛はうっすらと目を開けた。


「・・・・・・久遠・・・・?」
「うん。凛、自分の部屋に戻って寝ないと体調、っわ・・・!」
「・・・久遠」


なにこれ、なにこれ、

覆いかぶさるように抱き付かれて、バランスを崩したわたしは凛と一緒に床に倒れこむ。
寒さ対策で床に敷いていたカーペットのお陰で痛いのは免れた、けど、・・・っ!
混乱で言葉も出ない。

わたしの首の後ろで腕を交差した凛は、まるで親に甘える子どものようにすりよってきた。
羞恥でどうにかなってしまいそうだ。こんなこと、正常な凛なら絶対にしない。
もしかして、もう熱が移ってしまったとか・・・!
そう思って額に手を当てるけど、ぬるいくらいで熱くない。

確実に、寝ぼけてる。
暴れる心臓と、頬に集まる熱。押し返そうと試みるけど、程よく筋肉のついた凛の体はわたしの上からどこうとしてくれない。


「っりん・・・、凛・・・!」


深夜だから大きな声も出せない。
ぐいぐいと肩を押していると、凛は何を思ったのかわたしの上から動いてそのまま床に寝そべり、あろうことかその腕の中にわたしを閉じ込めてしまった。
完全に抱き込まれた状態のまま、動けない。
毛布もなにも被っていないけど、凛の体温が温かくてつい安心してしまった。


「凛」


起きない。


「凛ー」


背中に回った手が、さらに強くわたしを抱きしめた。
・・・これは、恥ずかしい。

けど、落ち着く。


「・・・凛、―――」


すき。

寝てる凛には聞こえないはずだけど、なんとなくその言葉は飲み込んだ。
もう、いいや。
まだ熱が引いてないせいか、ぼんやりとしてきた頭。凛の体温が心地よくて、恥ずかしいのに離れたくなくて、わたしはそのまま凛の腕の中で目を閉じた。
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