想いを伝えることに勇気なんていらなかった。
だってこの世界は残酷で、人類最強であり希望である彼がそんな恋愛沙汰にかまけてる時間なんてないに決まってるって思っていたからだ。
でも、自分の中にある彼への気持ちは大きくなるばかりでとどまるところを知らなかった。
本来ならしまっておくべき想いを、開き直った私は口にした。
それ以上もそれ以下も望んでいなかったと言ったら嘘になる。それなりに恋人らしいこともしてみたいなんて、女の子らしい願望も微かに抱いていた。

私は、好きになる人を間違えたのだ。
兵士にならなかったら、死に怯える恐怖も、彼に抱くこの苦くも甘い想いだって、知らないままでいれたのかもしれない。


「っ、・・・」


必要最低限の物しか置かれていない、どこか寂しい部屋のベッドの上。
ぼんやりとする視界の中、決して大きくはない彼の背中が見えた。自由の翼。その背中に、彼はいったいどれだけのプレッシャーを抱えて今を生きているのか。


"・・・愛してるなんて言葉、そう簡単に吐くんじゃねぇ"


好きとも大好きとも違う、だから私はあの日、愛してると告げた。
数秒とも数分ともとれる沈黙の後、彼はそう呟いたのだ。それから、私とリヴァイ兵長の奇妙な関係は続いている。

見た目からはあまり想像できない腕に抱かれると、無性に切なくなる。
低い声で名前を呼ばれると、泣きたくなる。
それでも決して"愛してる"と言わない兵長の闇を抱えた目を見ると、自分が滑稽に思えてならない。


「起きたか」
「・・・兵長、」
「俺はこれから会議で部屋を空けるが・・・、シャワーでも浴びて好きな時に出て行くなりなんなりすればいい」
「、はい・・・」


まだ、視界がぼんやりと滲んでいる。
兵長も、滲んでいる。
世界が、歪んでいる。

何故だろうと目をこすれば、何故か手に水滴があたった。


「・・・?」


雨漏りなんてしてないのに、った、った、と手におちるそれ。
無意識に漏れた声は震えていた。これは本当に、私の声・・・?


「・・・・・・クオン」
「は、い・・・っ!?」


ぐっ、と髪の毛をつかまれ、無理矢理上を向かされる。
反対の手で乱暴に目元をぬぐわれ、そこで初めて自分が泣いているのだと理解した。


「あれ、ごめ、なさ、へいちょ・・・!」
「・・・・・・・」
「ごめんなさい、ごめ、んなさい・・・!」
「・・・・いい」


ただ体を重ねるだけの関係でも、一秒でも長く彼を居られるのならそれでいいと思っていた。
思っていた、のに。

何故、こんなにも胸が痛いの。


「・・・とんだ大馬鹿野郎だな、お前も・・・・・俺も」


そう言って、ゆっくりと唇を重ねられる。
甘くなんてない。ただ、苦かった。


ノーマルに泣く
行かないでなんて言えないの
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