「あ」
「あ」
「あっ、おはようございます久遠さん!」
部屋を出るタイミングが偶然にも重なり、凛とハモったあとご丁寧にも似鳥くんが挨拶してくれた。挨拶を返しながら、今日から冬服になった二人をまじまじと見る。
なんというか、やっぱり凛は何を着ても様になる。じっと見すぎていたのか、「なんだよ」と呟くようにしてこぼされた言葉にはっと我に返る。
似鳥くんもすこし気恥ずかしそうな表情を浮かべていた。
「ごめん。なんだか冬服着てたから新鮮で」
「そりゃお前もだろ」
「似合ってますよ、久遠さん!」
「制服に似合う似合わないとかあるんだ・・・」
なんでも褒めておけばいいや、なんてことを似鳥くんが思うはずがないから、褒め言葉として有難く受け取っておくけど。
流れで学校までの決して長くはない道のりを一緒に歩くことになった。
口数の多くないわたしと凛と一緒でも、似鳥くんは楽しそうな顔でいろんなことを喋る。
ころころと変わる彼を見てると飽きないなぁ、なんてのんびりとそんなことを思った。
それに、さっきから。
そんなに背が高くない似鳥くんはともかく、高身長の凛が、わたしの歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれている。
本人はそうすることが当たり前って思ってるのかもしれない。
他の女の子と歩くときだって、そうしてるに違いない。
けど、それに気づいてしまったわたしの心臓はこんなちょっとの気遣いでも簡単に高鳴ってしまう。なんだか悔しくて、無意味に凛の肩に軽くパンチをお見舞いすれば、案の定「なにすんだよ」と怒られた。
「べつに」
「なんにもないのに叩くな馬鹿」
「凛だっていっつも無意味にデコピンしてくるじゃん」
「ま、まぁまぁ二人とも」
むっとしてわたしを睨む凛とそれに応戦するわたしの間に、困った声で仲裁に入る似鳥くん。
校門が見えてきた。
朝から楽しかったな、なんてことは絶対に言えないけど、知らないうちに頬が緩んでたのか凛が大きな手でわたしの髪の毛をぐちゃぐちゃにする。
ふっと笑った凛の表情がなんとも言えないくらいに優しくて、思わず息を呑んだ。
悟られないように、咄嗟に視線を外して似鳥くんに話しかける。
「・・・、んでそこで似鳥なんだよ、バカ」
呟かれた言葉の意味は、わからなかった。