ピンチだ。
絶体絶命のピンチだ。
部屋の隅にうごめくそれを見てしまった途端、叫び声をあげるどころかその場にヘタリこんでしまった。くっそ情けないあたしの足!!なんでこんなときに動かないんだよ!!
ヘルプを呼ぼうにも声が出ない。
それはかさかさと壁を登り、あろうことかその羽を広げようとしている。

・・・駆除せねば!!!

あたしはまだ死ぬわけにはいかない!
死ぬならサソリさんと一夜を共にしたり、イタチ兄さんにおもいっきりハグしてもらったり、デイダラをいじくり倒してから死にたい・・・!!!
関節が固まったかのような腕を無理矢理動かして、すぐ傍にあったハエ叩きを握る。


「せ、せ、せ、せー、の・・・!」


やつが飛び立つ前に仕留めないと・・・命はない!!!
手に持ったハエ叩きを振りかざした時、部屋の扉が開いた。


「・・・なにしてんだ」
「さっ、」
「は?」


現れた赤髪の彼にじわりと視界が滲む。


「サソリさぁぁぁあああん!!死ぬがどおぼいまじだぁぁぁ!」
「寄るなくっつくな鼻水つけんな!」
「うべっ!」


突進する勢いで腰に抱きつけば、即座に振り払われる。
ガチで引いた目をしているサソリさん、そんな表情もまたそそるものがあるけど、そんなに酷い顔してるのかあたし!
ずびずびと鼻水をすすれば、汚物を見るかのような目でサソリさんに見下される。ぞくぞくした。って、そんなことを言ってる場合じゃなくて!


「サソリさん!奴が・・・出たんです!」
「は?・・・敵か?」


一瞬にして警戒態勢に入ったサソリさんかっこいい惚れる。けど申し訳ないことに、普段物怖じしない(自覚くらいしてるさ!)あたしがこんなに恐れるモノ・・・それは。
・・・口に出したくもない!
振り返って奴の状態を見れば、羽を広げたのはどうやら一瞬だけでまだそこにとどまっていた。


「か・・・、かめ、カメムシ!!が!!あそこに!!ってサソリさぁんどこ行くんですかぁ!!」
「くだらね・・・」
「まっ、ホント待ってください!危機です!あたしの命が危ないんです!」
「死ぬなら勝手に死ね」
「ひどいけどすきぃぃぃいい!」
「遺言はしかと受け止めたぜ」


スタスタと去っていってしまう背中をにじむ視界の中で見送る。
きっと傀儡の調教だろうから、邪魔をするようなことはしたくない。

うう、でも、どうしよう本当に・・・!
恐る恐る奴を振り返れば、のそのそと動いていた。ああ気持ち悪い・・・!

廊下を這いつくばって、向かいの部屋をノックする。
低い声が聞こえた。「兄さぁぁああん・・・!」切実なあたしの声が届いたのか、若干眉根を寄せたイタチ兄さんが顔を覗かせる。なんでそんな警戒したような顔してるんですかぁ!

あたしの目じりに浮かぶ涙に気づいた彼は、少し驚いたように目を見開いた。
けど、すぐに呆れた風な顔になる。


「自分で退治できないのか」
「あたしとサソリさんの会話聞いてたんなら話が早いです!助けてくださいイタチ兄さん!」
「・・・はぁ、」


仕方ないな、と出てきてくれる兄さんまじで神・・・!いや元から神々しいくらいのふつくしさだったけど!
ありがとうございますと叫んで抱きつこうとしたら、やんわりと避けられた。
そんな冷たいところも好きです!


「どこにいる」
「あそこ、あの壁の・・・あれ?」
「・・・いないぞ」
「うそ・・・!うそだぁどこ行ったの!」
「久遠。落ち着け」
「だだだってこれじゃ絶対寝れないですよぉ・・・うぇ、」
「泣くな」


大きな手があたしの頭を撫でる。
あ、兄さんが優しい。こればかりはカメムシナイス。でも早く出て来い気持ち悪い。
いろんな思いがごっちゃになって大変な胸中である。

そんな時。
ぶーーーーーん、と嫌な音がした。


「っ飛びやがった!!!!!」
「うるさい」


頭を撫でていた手でそのまま叩かれる。
どこだと血走る目で奴を探そうとしたら、


「、久遠」
「へ」


目前に迫ってきたカメムシになす術なく、
次に訪れたのは真っ暗な闇。


「・・・・・・気絶するほど嫌いなのか・・、」


この話は、後の暁の笑い話になったことは、言うまでもない。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -