一人だったらきっと、遅くても一日や二日で仕上げていたであろうお守りを一週間かけて、やっと完成の形が見えてきた。
弁当を食うのが遅い久遠の教室に出向いて、針に糸を通すのが当たり前になってきていた今日この頃。
お世辞にも綺麗とは言えなかった縫い目は、日が経つにつれて俺と大差ないほどの綺麗なものになってきていた。
以前より飲み込みのはやくなった久遠。
失敗も多く、見ていてひやひやするがそれでも上手く縫えた時のこいつの嬉しそうな顔を前に、自分の頬も緩むのがわかって悔しくなる。
でも、悪い気はしない。
「あとちょっとで完成だ」
「結び目どうすんだ?オレンジに赤い紐ってのもきつすぎんだろ」
「無難に白とか・・・」
「紐くらいなら部活終わりにでも買いに行けるな」
「いつ行く?」
「・・・・、」
ケータイを取り出して、部活の日程表の画像を引っ張ってくる。
俺のケータイを覗き込んできた久遠との距離が一気に縮まり、一瞬心臓が跳ねた。
シャンプーの香りがする。春から切っていないこいつの髪の毛は、鎖骨あたりまで伸びていた。
「・・・見えねーだろが」
「え?」
「髪の毛。たれて画面が見えねぇ」
言いながら、空いた手で頬にかかっていた髪の毛を耳にかけてやる。
もう片方も同じようにしようとした時、久遠の頬が赤く染まっていることに気がついた。
・・・ちょっと待て、俺は今こいつに何をした?
今の自分の行動を思い返して、それから目を見開いたまま固まる久遠を見て、つられて顔が熱くなってくるのがわかった。
「っワリ、」
「、や・・・」
小さく呟いた久遠は、項垂れるようにして机に突っ伏した。
髪の毛の間から見える耳はこれでもかというくらい、真っ赤だ。
ケータイを握る手も熱い。
あー、
小さなうめき声が聞こえる。
項垂れたまま俺を睨むようにして見上げてきた久遠は、赤い顔のまま「馬鹿じゃん」と呟いた。
、馬鹿なのはどっちだ、馬鹿。
その角度、狙ってやってんのか。
悔しくなって、少しの力を込めたデコピンをお見舞いする。
「ったいな!」
「俺は馬鹿じゃねーよ」
なぁ、お前がそんな風に頬染める理由ってなんなんだよ。
・・・今はまだ、そんなこと聞けないけど。
少しくらい期待したって、罰は当たらないはずだろ?