溺れた君を救えない
「イタチ兄さんかっこよかったッス!」
「・・・トビの口調を真似るのはやめろ」
抱きつく勢いで手を握ったら、やんわりとほどかれた上にそんなことを言われた。
暁って照れ屋多いよね、みんな照れるよね。
分かるよ、あたしツンデレもどんと来いだから!
また来ると言い残してグルグル消えてったマダラを見送って(?)、あたしはソファーに脱力した。
いやぁ、あたしの性格的にふざけた物言いしかできないけど、死への恐怖だってちゃんと持ってる。
さっきはマジで殺されるかと思った、イタチ兄さんまであたしを殺しにかかってきたらどうしようなんて柄にも無く不安になった。
だからイタチ兄さんが助けてくれたときは、心から安心したんだ。
やっぱイタチ兄さん神だわ。
・・・優しすぎるその性格は、いかがなものかとは思うけどね。
でも好きだしあたしはこの世界の運命を変えてやるって決めたからいいんだけど!
「・・・お前は、」
赤の瞳があたしの目を見る。
平和ボケしたあたしの顔が、イタチ兄さんの瞳に映った。
ああ、あまりにもこの世界には似合わないな。なんて。
「どこまで視えている」
き、キメ台詞をこんな段階で聞けるなんてぇ・・・!
冷め切らない興奮を押し殺して(だってそんな雰囲気じゃないからね)、とりあえず笑っておく。
「全部です!イタチ兄さんの過去も未来も、心の中も全部!」
だからあなたがすごく冷酷で、すごく優しいことも知ってる。
たったひとりの弟のために、木ノ葉のためにと己を穢す覚悟も知ってる。
すべてを背負って歩いてる、ぼろぼろになった心も知ってる。
イタチ兄さんは一言そうか、と呟いた。
キズのつけられた額当てが、鈍くきらめく。
あたしは変えたいんだ、でもきっとこの人はそんなこと望んでなんかないんだろうな。
沈黙が続くこの空間で、思う。
イタチ兄さんは、どうやったら・・・
どうやったら、少しくらい素直になってくれるんだろう。
「・・・体は大丈夫なんですか?」
「、・・・」
「あんまり無理しないでください」
少しだけ、泣きそうになった。