例えばこの世界が漫画の中の世界だったとします。
あたしはその漫画を全巻集めているほどのファンで、何回も何回も読み直したりして物語の構成や登場人物、その先に起こることを熟知しているとします。

例えば漫画を読んでいた世界で、あたしが事故で死んだとします。
死んだと思われて目を開けた先が、漫画の中の世界だったとします。

あたしがこの世界の登場人物やその目的や忍術、口調や癖も知ってても、おかしくはないはずです。

つまり、あたしはみなさんの未来や・・・過去を知ってることになります。


開いた口がふさがらないとは、こういうことを言うのだろうか。
半ば物語を語るような口調で話し始めたこいつの言葉はどれも信じがたく、どこか神秘的なものすら感じた。

始終笑顔で語るこいつは、至極嬉しそうだったが。


「・・・その話を、信じろと?」


厳かなマダラの声が、リビングに重く冷たく響く。
久遠は笑顔を崩さないまま、信じる信じないはそっちが勝手に決めてくださいと返した。
どこまでもつかめないやつだ。


「なんならトビ・・・マダラ、いや・・・まぁいいや、トビの目的を今ここで話してもいいよ?」
「・・・いや、いい」


少し焦ったようにして、マダラは首を横の振った。

ふいに目が合う。
久遠は少し悲しそうに目を細めて、また笑った。

マダラの腕がわずかに動く。
オレは咄嗟に久遠を背にかばった。


「・・・手は出させん」
「・・・珍しいなイタチ・・・たかが小娘、お前の知ったことではないだろう。厄介だ、今ここで殺しておかないと計画の邪魔になることは明らかだ」


なるほど、何故こいつがこんなにも平和ボケした顔をしていたのか全て分かった。
きっとこいつの世界は、こんな血塗られた世界よりも数倍平和なのだろう。


「たかが小娘だろう。殺す価値もなにもない、ついでに力もな。全てを知っているとして、こいつには邪魔する力などない」


背にかばった久遠が、わずかに震えたのが分かった。


「殺す価値はない、か。ならば守る価値などもっとないだろう?なにをやっきになっている」


言われてみれば言うとおりで、オレはなにも言い返せなかった。

理由などない。
犯罪に身を染めたオレが言うことではないが、守りたいから守るのだ。

長い沈黙を破ったのは、オレの背中に隠れていた久遠だった。


「・・・死にたくない方に、一票」


・・・こいつはどこまでも据わっている。

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