「久遠?」


せっかくのオフの日だし、急に岩鳶に帰りたくなってしまったわたしは凛に先に帰っておいてもらって岩鳶に足を運ぼうとしたのだけど、凛はついてくと行って同じ電車に乗った。
特に何を話すでもないまま海辺をボーっと眺めながら二人で歩いていたら、聞き慣れた声。
海を見ていた視線を前方に戻せば、わたしが名前を呼ぶより早く隣を歩いていた凛が「ハル」とこぼした。
隣には真琴も居る。


「帰ってたのか」
「もー、連絡くらい入れなっていつも言ってるのに。凛も来てたんだね」
「おう」
「連絡入れたら絶対迎えに来るって言うから、遙も真琴も」


実際年下だけど一つしか違わないんだから、子ども扱いしないでほしい。
口には出さないけど目は口ほどにものを言っていたのか、真琴は「ちがうよ」と笑った。


「迎えに行きたいに決まってるでしょ。せっかく久遠が戻ってきてるなら、少しでも長い時間を一緒に過ごしたいから」
「だから、連絡は入れろ。別に久遠のこと子どもだと思ってるわけじゃない」
「・・・・・・うん」
「お前ら俺が居ること忘れてるだろ・・・」


隣で凛が何か呟いていたけどスルーさせてもらおう。

にっこりと笑みを浮かべた真琴に頭を撫でられて、表情の変わらない遙に手を取られ、そのまま歩き出す。
どこに行くかなんてわたしは聞かなくてもわかったけど、凛は違う。
何が面白くないのか不機嫌そうに眉根を寄せる凛に、行こうと声をかけた。


「遙の家」



「なんも変わってねーのな」


凛の呟きに頷きながら、冷蔵庫をまさぐった。
相変わらずすっからかんだったけど、牛乳を見つけて取り出す。
遙は鯖を焼いていて、その横で真琴はスルメイカを焼いている。二人とも、昔からちっとも変わらない。


「凛、コップ取って」
「・・・勝手にとって、」
「いい。遙ー、牛乳もらうよ」


無言は肯定。
じゅうじゅうと鯖を焼く音が返事なのかもしれない。
ずっと一緒に育ってきた遙の家には、いつ来てもいいようにわたし専用のコップとマグカップが置いてある。真琴の分も然り。
偶然か、そのコップを取り出してきた凛は納得がいかないかのような顔で「ん」とそれを突き出した。


「凛も飲む?」
「また立つのだりィからいい」
「喉渇いてないの?」
「渇いてないわけではねーけど・・・」
「なら飲めばいいじゃん、はい」


飲みさしをあげるのは申し訳ないだとか、そんなこと凛に感じることはないから一口飲んだ牛乳の入ったコップを差し出せば、凛は一瞬目を見開いてすぐに呆れた風なため息をついた。
え、なんで。


「お前なぁ、」
「鯖出来た」
「スルメイカもできたよ。あ、久遠コップ出してくれる?あとみっつ」
「うん」


真琴が何故かみっつ、のところを強調して言ったのが少し気になったけど、差し出していたコップを手元に戻して食器棚に足を運ぶ。
配置も昔とそんなに変わらないなぁ、なんて思いながら遙と真琴がいつも使っているコップを取り出して、凛にはお客様用のものを持って居間に帰る。

なにやら深刻そうな顔を突き合わせて会話していた三人は、わたしを振り返ってスペースを空けた。


「なんの話してたの?」
「ううん、別になんでもないよ」
「それより鯖、冷めないうちに食え」
「スルメイカにマヨネーズは必須だろ。おいハル、マヨネーズないのか」
「自分で取れ」
「チッ・・・」
「ほら、ここおいで久遠」
「? ・・・うん」


なんだこの空気。
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