「だからお前はなんっべん言ったら分かんだよ!」
「うっさいなやってるじゃん!っ痛、」
「っんの馬鹿・・・!」


思いっ切り針を自分の指にブッ刺した久遠に、内心焦りながら引き出しの中の絆創膏を探す。
裁縫を教えてくれと俺の部屋に顔を覗かせた時から、ゆうに二時間は経っていた。
なんの気を利かせているのか、似鳥はそそくさと部屋を出てしまっている。
別に俺と久遠はそういうんじゃないからんなことしなくてもいいと視線で訴えかけてみたが、逆に「すいません!」と必死に頭を下げながら目にも留まらぬ速さであっという間にどこかに行ってしまった。何故だ。

手ぇ出せ、なんて言いながら無理矢理細っこい手を掴んで血が出ているところを軽く拭いてから絆創膏を巻く。
江の世話をしてきたせいか、こういうことには慣れていた。


「・・・つーか、なんで急に裁縫なんか」
「別に凛には関係な・・・くもないか・・・」
「なんだよその曖昧な返答は」
「くれぐれも内緒にしておいてほしいんだけど」
「? あんだよ」


部屋には二人しかいないというのに耳を貸せという仕草をするそいつの言うことを聞いて僅かに首を傾ける。
近づいてきた久遠から漂う石鹸の香りに、不覚にも心臓が騒いだ。
地区大会の前日、自動販売機の前に二人でいたときのことを思い出す。
あの時俺が言おうとしていたことなんて、こいつは分かっちゃいないに違いない。

"明日、あいつに勝ったら"


「受験生の部長にお守り作ろうかなって思ってて」
「お守り・・・?、」
「そう」


針と糸を持ち直して、久遠は楽しそうに笑った。
その笑顔に、いろんな意味で胸が苦しくなる。んだよソレ、部長のためかよ・・・クソ、

苛々する理由なんてとっくの昔から分かってる。
自分の気持ちに自覚だってしてる。

そんな俺をよそに、久遠は難しい顔をしながら針の穴に糸を通そうと悪戦苦闘していた。
なぁ、お前、部長のことが―――、


「・・・どしたの?」
「っは、」


無意識にこいつの細い腕を掴んでしまっていた。
なんでもねぇ、と苦しい言い逃れをして、そっぽを向く。訝しげな視線を受けながら、俺はそのままケータイをいじることにした。

今更ながら、こいつが苦しんでるときに自分のことでいっぱいいっぱいだった先日の俺を悔やむ。
部長はなんだかんだ言って面倒見もいいし、たまにうぜぇけど優しいし、まぁ・・・尊敬している、し・・・

俺も日ごろの礼をかねて何かしたほうがいいのかと思いつつ、隣でやっと糸を通せた久遠を盗み見た。


「凛もなにかしないの?」
「別に・・・なんも思い浮かばねーし」
「あんなに迷惑かけておいてなにもしないの・・・それはないわー」
「うっせーよ・・・」
「・・・一緒につくろうよ、お守り」


手からケータイを取り上げて、少しふくれっつらの久遠は俺の顔を覗きこみながら言う。
っそれ、反則だってわかってやってんのかコイツ・・・!


「・・・わかった、よ!」
「った!なにすんの!」
「なにってデコピンだけど」
「うっざ・・・!乱暴しなくたっていいでしょ!」
「つーか針に糸通せたくらいで喜んでんじゃねェぞ。お守りって簡単そうに見えて結構むずいんだからな・・・お前にとっては」
「最後の一言超余計!!」
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -