「ん」


差し出されたアイスを、手に取らずに口で受け止める。
物言いたげな瞳で見てきた凛は見なかったフリをして、コントローラーのボタンを連打する。今あたしはラスボスを倒すので精一杯なのだ。
アイスを持ってきてほしいと頼んだのはあたしだけどごめんよ凛。
アイスにも君にもかまってる暇はない!


「・・・お前なあ、・・・」


そんなあたしに慣れたくなくても慣れてしまった凛は、普通より長い髪の毛をかきあげて緩くあたしの額を叩いた。痛いけど痛くない。


「んなことしてっと溶けるぞ」
「んうー」


答えにならない答えを返して、あ、あああああああ!!
回復薬切れた!ちょ!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬし、


「・・・っ!!」


頬を伝ったのは涙か汗か。きっとどっちもだ。
クーラーのきかないあたしの部屋では扇風機で毎夏を乗り越えているのだ。今その扇風機は凛に占領されている(ふざけろ)
どうせ暑い暑い言いながら色気むんむんのVネックの首元をパタパタと仰いでいるのだクッソそんなことよりも・・・何故・・・いざ戦いに行くときに回復薬はちゃんと確認したはずなのに・・・そんなに使ったっけ・・・?

・・・・・・・・・・・まさか。


「ひん」
「ちゃんと喋れよ」


コントローラーを床に置いて、溶け始めたアイスを一気に飲み込む。
冷たさが体中を駆け巡って、きぃんと頭に響いた。う、一気に食べるとこうなるのか・・・!
悶えるあたしを呆れた目で見た凛は、何を思ったのかゲームの電源を切った。・・・切ったぁ!?


「なななんあ!!え!?セーブしてなかったけど!?」
「どうせ負けてんだろ」
「いくない!非常にいくないよ!またあの幻の剣を作るとこから始めないとっ・・・凛の馬鹿ー!!」
「てめぇ・・・貴重なオフを一緒にすごそうとか言っときながらずっとゲームしやがって」


やっぱり回復薬切れたの凛の仕業かあああああ!!
いったいあたしが席外した瞬間に何回飲ませたのよ!!

真っ暗になったテレビの画面を見ながら、絶望とともにあぐらをかく凛のそれに倒れこんだ。暑い。
暑いと言いながらもあたしの髪の毛を触ってくる凛は、素直じゃないだけで可愛い奴なのだ。


「ちなみに何回使ったの?回復薬」
「・・・・知らねー。変わりに倒しといてやろーと思ったらギッタギタにされた」
「へたくそ!」
「うるせぇ!」
「扇風機の風こないよー凛くび、くび回して扇風機のくび!」
「てめーは・・・!」


自分でも自覚してるほどの自由さで凛を翻弄するのはとても楽しい。
凛も、素直に僕にもかまって!て言えばいくらでもかまってあげるのにね〜

考えてることを読まれたのか、ジト目で見られたあげく大きな手で顔面を叩かれた。
これはさすがに痛い。


「凛」
「なに」
「りーん」
「ん」


ねえ、今日はなにしようか?

サラサラの髪の毛を掴んで引き寄せた。
苦痛に歪む顔に、少し笑って、軽く口付ける。
顔を離すと、それはもう不機嫌そうにギザギザの歯を見せて、眉を寄せていた。


「あっはー、痛かった?」
「・・・・覚悟しとけよ」


赤に染まった視界で、アイスを食べたばかりのふたつの唇は、夏だけど少し冷たい。


溶けあうアイス
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