『凛、行っちゃったね』


桜の木の下にみんなで勝ち取ったトロフィーを埋めて、少しの間話して、凛は飛行機に乗って行ってしまった。
寂しそうな久遠の表情に、いつの間に名前で呼ぶようになったんだとか色々質問はあるけど、まず確かめたいことがあった。
大会の日、久遠は言った。
わたしに同じ景色を見ることはできないのかって。


『っ久遠』


珍しく大きな声を出したせいか、真琴までもが驚いておれを振り返る。
同じように振り返った久遠は、おれの表情を見て悟ったのかゆるりと笑って『もういいんだ』と一言。

あの日、追いかけることができなかった自分の無力さを思い知った。
同時に、ためらわず久遠の背中を追いかけて行った凛をうらやましいと思った。
おれにはできないことや、うまく伝えられないことを、あいつは簡単にやってしまうし伝えてしまう。
偽善とかじゃなくて、本心からぶつかっていく。
不器用なおれとは、正反対な、凛。


『凛が、わたしの中の汚い感情を、ゆるしてくれたから』
『・・・久遠』


ごめん、ありがとう、
なんていえばいいのかわからない。
長く一緒にいても、わからないことがあったなんて。

おれは確かにあのリレーで仲間と一緒に泳ぐ楽しさを知った。
でも久遠は、久遠は。


『おれは、久遠のこと、置いて行ったりしない』
『っオレもだよ!久遠のこと大切だから、その・・・ごめんね、久遠が抱えてる思い、知らなくて』


小さな手を包むようにして握る。
その横で、真琴は久遠の頭を撫でた。

―――久遠はずっと、そんなおれ達の背中を見ながら、泣いてたのか。
おれは、守るべき存在である大切な幼馴染みを、傷つけてたのか。

なんて言葉をかけていいのかわからない。
でも、でも、あのリレーで見えた景色の先には―――



"わたしにはないものを持ってる遙たちが、動かないで、どうするのぉ・・・!"

俺は、俺たちは、久遠に伝えないといけないことがある。
また昔みたいに凛と一緒に泳ぐことができた。
昔見た景色と同じ、いやそれ以上のものが見えた。
そして、その景色の先には。


「凛、久遠はどこにいる?」
「俺たち、久遠に伝えないと」
「僕も同じこと思ってたんだ!凛ちゃんも、そうでしょう?」
「・・・ああ」


なにか後ろめたいことがあるのか、俺たちと同じ思いを抱えながらもたじろいでいる凛にしびれを切らしたのは、俺ではなく真琴だった。
大きな手が凛の胸倉を掴む。驚いた渚が大きな目をさらに大きくして「マコちゃん!?」と悲鳴にも近い声を上げた。


「っ泣いてた!久遠が、泣いてたんだ・・・!!自分はなにもできなかったって、俺たちじゃないと駄目だって、泣いて、縋ってきた!」
「え、・・・」
「・・・っそうだよ凛ちゃん!きっと凛ちゃんを支えてきたのは久遠のはずでしょ!それをちゃんと伝えないと、不器用で馬鹿な久遠にはわかんないんだよ!」
「久遠は不器用だけど馬鹿じゃない」
「ハル今はそんなこと言ってる場合じゃなくて!!」


ここには、この輪の中には、やっぱり、久遠がいないと。
久遠のところに、行かないと。
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