松岡先輩が、リレーのメンバーから外された。
部長がそうした理由は一年の僕でもなんとなくわかってしまった。このごろの先輩はなんだかがむしゃらで、どこか遠いところばかり見ていたから。
思わず楸さんの表情をうかがってしまった時、僕は少し驚いた。
きっと彼女なら、この結果を悔しがって、泣きそうな顔をするに違いないと思っていたから。


「似鳥くん、今日は応援がんばろう」
「っはい!」


合宿の時と同じように、通路を挟んで隣になった楸さんに声をかけられて我に返る。
恐る恐る隣の席に座っている松岡先輩を盗み見る。窓の外を眺めている先輩の表情は、見ることができなかった。



「・・・っ、凛・・・」


ぎゅうっと拳を握り締めて、唇を噛んでいた楸さんはばっと立ち上がった。

・・・あんなの、先輩の泳ぎじゃない。
きっと今日は、コンディションが悪かっただけだ。だって、あんな・・・


「っ久遠さん、僕も行きます!」
「似鳥くん・・・、うん」


部長を振り返れば、好きにしろとでも言うかのように軽く頭を振った。
実力主義なんだってことはこの学校に入る前から知っていた。でもそんなの、関係ない。
先輩はすごい力を持ってる僕の憧れだ。こんなところで終わる人じゃない!



大きな音が響いた。
しりもちをついて呆然と松岡先輩を見上げる久遠さんと、固まった空気に動けない僕。

"水泳なんてやめてやるよ!!"

そう言って、腕を掴んでいた久遠さんを思い切り振り払った。

"支えたかったから"

僕は、見た。
彼女が必死に部員を、先輩を支えようと懸命に何度も失敗しながら働いていたところを。
僕は、聞いた。
彼女が先輩を支えたいと思っている心のうちを。

でも、僕は、先輩の苦しみもすべては理解できなくても、じかで彼のがんばりを見てきたから、それが実らない悔しさもわかるのだ。


「りん、」
「もう俺にかまうな・・・!」
「まって、凛・・・!」
「かまうな!!」


凄みのある声でそう言い放って、先輩は歩き出す。
俯いてしまった久遠さんに、なんて言葉をかければいいのかわからない。先輩と久遠さんを交互に見ていると、岩鳶のみなさんが走ってやって来た。


「久遠!」


・・・ここは、彼らに任せよう。
頭を下げて、立ち上がらない彼女をそのままに先輩の跡を追う。このままだと先輩は、本当に水泳を辞めてしまう。
それは、彼の力を知っている僕にとっても、先輩自身にとっても、・・・久遠さんにとっても絶対に選んではいけいない選択肢だ。

人通りの少ない廊下を駆ける。
僕じゃなんにもできないかもしれない、そんな思いを抱えながらも、やっぱり僕は実力うんぬん抜きにしたって先輩が、・・・いつもの練習風景が、好きだから。
いつもの二人が、好きだから。

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