「あ、征くんじゃん」


オレのことを、征くんなんて呼ぶ人は一人しかいない。それに、このどこか気の抜けた、それでいて安心する声は。

ゆっくりと振り返ってその姿を確認する。
ジャージにパーカーという、パジャマみたいな格好をした久遠が片手にレジ袋を提げながら駆け寄ってきた。


「久遠はコンビニが好きなのかい」
「え?なんで?好きとか考えたことはなかったけど・・・」
「よくここら辺で君の遭遇することが多いからね」
「まぁ、確かにね。この季節はおでんがセールやってたりするんだよ」
「あまりコンビニ食ばかりだと体に悪いぞ」
「大丈夫!夕飯はちゃんと食べてるから」
「・・・食欲の秋ってやつか。紫原も君とスイーツ食べ放題の店に行くって楽しげに話してたよ」
「へへ。チケットもらった時はあっちんが神に見えたよ」
「そう」


途切れることのない、くだらない会話をしながらゆっくりと足を動かす。
だんだんと短くなってきている日に、この時間帯はもう辺りは暗くなっていた。
送るよと言えば、久遠はそう言われることを予想していたのか「断っても無駄だろうし、お言葉に甘えて」とレジ袋から肉まんを取り出した。


「あげる!あそこのコンビニの肉まん、おいしいんだよ」
「・・・じゃあ、半分いただくよ。ありがとう」


一口かじれば、ほかほかのそれが温めるように体中に広がっていく感覚がした。
味としてはきっと、うちで出されるものの方が高級なのだろう。
それなのに、今こうして二人並んで食べる肉まんのほうが、何倍もおいしく感じるその理由を、オレはとうに知っている。


「おいしいでしょ」
「ああ」


食べ歩きなんて、家内の者に見られたらなんて言われるか。
そんなことが気にならないくらいに、久遠と居るのは楽しいし、・・・心地よい。

知らず知らず笑みがこぼれていたのか、何笑ってるのと嬉しそうな顔の久遠。


「たまにはこういうのもいいなと感じただけだよ」


そう言って笑えば、彼女はより一層嬉しそうな顔をした。


寄り添う君の心音に告げる
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