竜ヶ崎、とかいう奴に呼び出されて戻ってきた後からの松岡の泳ぎは、目に見えて荒れていた。
最近のこいつの泳ぎといい、呼び出されたあとのあの表情といい、リレーのメンバーとしてやっていくにはベストなポジションじゃねぇな。
ちらりと脳をかすめる選択に、たぶんオレの横で難しそうな顔をしている楸は気づいているのだろう。
沈うつな表情で荒れた泳ぎをする松岡を見つめていた。


「・・・楸」
「・・・・・・・部長が考えてること、わかってます」
「お前があいつに肩入れしてんのはわかってるが、・・・それでも最悪メンバーを変えることになるだろう。松岡があんな泳ぎをしている限り、」
「はい。わたしもそのほうがいいと思います」


意外な言葉に、オレは若干驚いて楸を見た。
松岡を見つめたまま、彼女は悩ましげに眉根を寄せる。


「わたしは、凛・・・松岡先輩がリレーのメンバーに入れろって言ってたとき、嬉しかった」
「嬉しかった?お前がか」
「はい。遙たちと同じチームじゃなくても、鮫柄のメンバーとして泳いで、またあの頃みたいに笑って・・・楽しそうな姿が見れるのかなって」


なんの話かはかりかねたが、まぁ大方昔の話をしているのだろう。
小耳に挟んだ話では、昔の奴はもっと明るくて愛想のいい子どもだったらしいからな。今のあいつからじゃ到底想像できない姿に笑ったのを覚えている。


「・・・今度はわたしだって、全力でサポートしようって、決めてました・・・けど」


やっぱりわたしじゃ駄目みたいです。

伏せられた顔は、髪の毛に隠れて見る事は叶わなかった。
・・・ったく、一丁前に悩んだり、喧嘩したり、こいつらは本当に急がしい。
組んでいた腕を解いて、俯いた楸の頭を乱暴にかき混ぜる。
ゆっくりと顔を上げた楸は、悔しそうに唇をかんでいた。

おら、そんな噛んでると血ィ出んぞ。
小さくため息をついて、頬をつねる。


「やめてください部長!」
「お前がなんで松岡にそんな肩入れしてんのか知らんが、お前はお前にできることを最後までやりゃいーだろ、な」
「・・・わかってますもん」
「いーやわかってなかったな!オレのおかげで気づいたって顔だ!」
「わかってましたもん!」


さて、そろそろ機嫌を損ねそう(もう損ねてるか)だから楸いじりはここまでにしておこう。
仕上げにもう一度頭に手を置いて、二回ほど叩いてやる。


「子ども扱いは止めてください!」
「まだ子どもだろー「久遠!」・・・お?」


むすっとした顔でプールから上がってきた松岡は、こいつの細い腕を掴んで大股で歩いていった。
・・・これってやっぱり敵視されてんだよなぁ、オレ。
妹ができたみたいで可愛がってるだけなんだがな、と焦りながらもついていく楸の背中を眺める。


"わたしじゃ駄目みたいです"


・・・そんなことはないんだろうが、でも、うちは実力主義で、速いやつが勝つ。
メンバーは、決まりだな。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -