図書室って入学してから一回も行ったことないんだよね〜

そう笑いながら言った久遠さんに、僕は驚いた。
本が読むことを趣味とする僕にとって図書室に足を運ぶことは日常的なことであったからだ。
驚いている気配が伝わったのか、久遠さんは一層目元を細くして「ありえないって顔してる」といたずらに笑った。彼女のこの表情は、好きだ。どこか大人っぽい普段の雰囲気から一変して、妙に子どもっぽく映る。


「図書室って、どんなところ?」
「・・・質問が、なんというか・・・どんなところと言っても、本がたくさんあるとしか言いようがありませんが、・・・」
「ほら、私頭があんまりよろしくないからさ、図書室って堅苦しい雰囲気で勉強ばっかしてる人が行くもんだと思ってたし。小学校の時から行ったことない」
「人生の半分以上損してます、それは」
「そこまで!?」


少しからかいを含めた僕の言葉に大げさに反応した久遠さんは、困ったように髪の毛を触った。
普段からあまり自分の身なりを気にしない彼女が髪の毛を触るときは、困ったときだということに最近気づいた。
身なりを気にしないと言っても基準は人それぞれだが、朝一度家でセットしてきているであろう髪型を、学校で直したりということはしないだけで汚いわけではない。
以前青峰君に切られてアシメになってしまっていた前髪も、今では綺麗に目の上で切りそろえられている。


「だったら、一度行ってみますか?図書室」
「んん?」
「静かでとても落ち着くいいところですよ」
「ちょ、子テツ」


手首を掴んで立たせる。
少し強引かと心配になったが、なんでもないような顔をしている彼女を見て安心した。杞憂だった。久遠さんはこんなことで怒るような人ではない。

弾む心。
趣味を共有できるということに、喜びを感じずにはいられないだろう。

マンモス校だということもあいまって、この学校の図書室はけっこう広い。
静かな空間に足を踏み入れた途端、僕の半歩後ろを歩いていた久遠さんが息を呑む気配を感じた。


「・・・なんというか、ほんとに静かだね」
「騒いだりしてたら怒られますし」
「でも、堅苦しい感じはしないや」
「みなさん趣味でここに来ている人が大半です。・・・まぁもちろん勉強目的の人もいますが・・・」


へぇ、とかふぅん、とか呟きながら棚にびっしりと詰め込まれた本を眺める彼女が居るこの空間に、少し違和感を覚える。
いつも一人でこの世界に浸っていたけれど、それを誰かと共有するというだけで、こうも違ってくるものなのか、それとも・・・
共有する相手が、彼女だからなのか、


「・・・なんか、私、図書室好きになれそう」
「それは良かったです」
「子テツがいるからなおさらだね」


どうしてこの人は、こうも簡単にそんなことを言えるのか。
照れ隠しに少し笑ってみせれば、「照れないでって」と図星をつかれた。


「仲良くなれば子テツの表情の変化とかわかってくるもんだね」


ごまかすために、いつもは読まない恋愛小説に手を伸ばした。

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