スクールバックじゃなくて、大人っぽいリュックをせおう。
ローファーじゃなくて、底の高いスニーカーを履く。
やっとわたしも、高校一年生。
みんなが憧れる黒光りするスクールバックもローファーも、持たないし履かないのには深いふかーーーーーい理由がある。

通学路には、綺麗な桜が咲いていた。
買ってもらった新品のケータイで思わず写メってあの人にメールを飛ばせば、すぐに返信が来た。


"ガキみたいなことしてないで、早く学校に行け"


ああ、また子ども扱いして。

スクールバックだって買わずにリュックで我慢した。
ローファーだって、本当はスカートももっと短くしたかったけど、子どもっぽいと思われないように、我慢した。

でもマダラは、いつだって私のことを子ども扱いする。


"もう子どもじゃないし!高校生なんだから"


今頃彼は、最近購入した新品の高級車で優雅に会社に向かっているのだろう。
余裕な笑みと、それにきっとときめいてしまうのだろう自分を想像して、なんだか悔しくなった。


「・・・あ、遅れちゃう・・・」


高校初日から遅刻はよくない。
一度桜を見上げて、足を踏み出した。

その時。


「久遠」
「! ま、マダラ・・・?」


黒い高級車の運転席から、いつもどおりの余裕そうな笑みを浮かべて私を手招きする彼。
なんで、どうしてと混乱する心の中で私は嬉々として駆け寄った。


「なんでいるのっ?会社休みなのっ?あ、その車の乗り心地はどう?」
「一気に質問をよこすな、落ち着け」


大きな手が頭に乗る。
あ、またやってしまった。
マダラの前ではなるべく大人なキャラを見せようと努めているのに、本当の大人な彼の前では失敗することも数知れず。

数回撫でられて俯けば、くつくつと低い声で笑ったマダラは助手席のドアを開けた。


「乗れ。学校まで送っていってやろう」
「え・・・やだよ、そんなのインパクトありすぎる!」
「そっちのほうがいいだろう、友もできやすくなるかもしれん」
「みんな引いちゃうって」
「ほう。なら遅刻してもいいんだな?」


高そうな腕時計を目前に掲げられ、私は言葉に詰まった。


「・・・お願いします」
「ああ」


助手席に乗り込んだ私の頭を再度撫でて、マダラは車を発進させた。
曲がったりブレーキをかけたりするたびにうるさいうちの車とは大違いで、マダラの車は静かに道路を滑るように進む。

黒いスーツにサラサラな髪、凛々しい顔立ちに綺麗な手。
・・・絶対、会社でもいろんな女性に言い寄られてるんだろうなぁ。
無意識にそんなことを考えては膨らむ嫉妬心に気づいているのかいないのか、マダラはどんどん、どんどんかっこよくなる。


「なにをぶすくれた顔してる、俺の車に乗らせてもらってるんだぞ?」
「・・・何様よ」
「ふっ・・・俺様に決まってるだろう」


あっという間に学校に着いてしまった。
口数の多くない二人の空間だけど、私にはそれくらいがちょうどいい。
「降りないのか?」笑いを含んだ声で、マダラは私のシートベルトを外す。・・・もう、そんなところが、


「マダラ、」
「ん?」
「・・・・なんでもない」
「・・・久遠」
「なに・・・?、」


ふわ、
マダラの香りが鼻腔を支配して、一瞬目の前が真っ暗になった。


「いってらっしゃいのキス、だな」
「・・・っ!っ、」


ああ、早く"大人"になりたい。


だってこどもだもの
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