箸を落としてしまった。
いつも頼りにしているとある番組の占いの時間。開いた口がふさがらないというのは、このことか。
これなら、青峰にグラビア雑誌を借りるほうがまだマシだと思えるくらいに、今日のラッキーアイテムは際どいところをついてきていた。


《最下位はかに座のあなた!今日は好きな子に告白、もしくは気になってる子にアタックなど、積極的に関わっていくと運気アップ間違いなしでしょう♪》


脳裏にちらつく幼馴染みの姿に、オレは箸を持ち直して米をかきこむ。
途中でむせ、母に心配されてしまった。
まったく、なんという難題を、与えてくるのだおは朝・・・!
最下位ということもあり、憂鬱な気分で玄関を出る。
隣の家の門を見たところ、まだあいつは出てきていない。いやむしろおきてすらいないんじゃないのか。
・・・ありうる。別に口約束とかして共に登校しているわけではないが、本当に昔から一緒にいたのだ、今更一人で先に行ってしまうのも気が引ける。
それに、今日のおは朝・・・


「・・・しかたない」


告白なんて今はまだできないが、起こすくらいならやってやろう。
悲しいかな、オレは女子というには程遠い、見た目も性格もがさつな我が幼馴染みに想いを寄せてしまっている。
気づいたのはいつごろか、よくわからないが、もう何年もこの想いは温めたまま胸の奥深くへとしまいこんでいる。

・・・本当に、今更、どうしろというのだよ・・・

インターホンを鳴らす。
出てきたのはあいつの母で、「あら真太郎くん、ごめんねいつもうちの娘が〜」なんてほがらかな笑顔で出迎えてくれた。
小さく会釈して、はいたばかりの靴を脱ぐ。この家の構造は熟知している。
先日あいつの兄が上京し、ひとつ部屋が空いてはいるが、依然家の中の様子は変わらない。

そういえば、兄が旅立ったあとの一週間はオレの部屋に入り浸っていたな・・・
喧嘩はすれど、仲の良い兄妹だったのだ、仕方のないことかもしれないが。


「久遠、入るぞ」


返事を待たずにドアを開ければ、案の定膨らんでいるベッド。中には当然久遠が丸くなって眠っているのだろう。
小さくため息をついて大股で近寄る。


「久遠」
「・・・んー・・・」


掛け布団から、見慣れた姿が顔を出す。
見慣れた、見慣れている、はずなのに、おは朝のせいか変に高鳴る胸に気づかないふりはできなかった。

がさつ、なんて表現したはいいが、昔よりも明らかに"女"になっている久遠。
長いまつげと白い肌。頬に伸ばしかけた手を止め、細い肩を思い切り揺すった。


「うえっ・・・う、・・・んー?・・・しんたろー・・・」
「しんたろー、じゃないのだよ。起きろ、遅刻するぞ」
「んあ?え!?もうそんな時間かよ!?お母さん起こしてくれたっていいじゃん!!」
「はぁ・・・おばさんのせいにするな」


勢いよく起き上がった久遠は、ぶつぶつと文句を言いながら急いで準備を始めた。
伸びた髪の毛をしばったときに見えるうなじが、妙に・・・・・・、オレは何を見ているのだよ。


「外にいるぞ」
「ごめん!あ、真太郎今日占い何位だった?」
「、・・・」


そうだ、こいつはいつも楽しそうにオレのラッキーアイテムを眺めるのだ。
何も持ってないオレをいぶかしんでか、若干不思議そうな顔で問いかけてきた久遠に一瞬出かけた言葉を飲み込み、早くしろと部屋を出る。

誰にも渡したくないと思う。
オレの傍で笑っていてほしいと思う。

だけどまだ、まだ。


「いっそげーーーー!しんたろ急いでホラ!」
「お前のせいだろう!背中を叩くな!」


妙に危なっかしくて妙に心地よいこの距離を、保っていたいと、思うのだ。


アンラッキーピーポー
ぬるま湯につかるかのような、感覚
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