やってしまった。
言ってしまった。
今まで自分の中にあった醜い感情を、嫌な形で引き出してしまった。

驚いたような、少し傷ついたような、はるちゃんとまこちゃんの表情が脳裏に浮かぶ。
だって、ずっと一緒だったから。
わたしだけ見えない世界があるなんて、とてつもなく悔しくて寂しかったから、


『・・・どうしよう』


止める松岡くんの手を振り払って、人気のない廊下でさまよう。
戻ろうにも戻れない空気になってしまった。
女子更衣室は男子更衣室のすぐ隣だし、戻ったらきっと遭遇してしまう。

あんな顔をさせたかったわけじゃない。
悔しくてもやっぱり、わたしも見ててすごいなって思ったから、会ったらちゃんと笑顔でおめでとうって、言うつもりだった。
でも、無邪気に抱き合うみんなを見て、なんであそこにわたしは居られないんだろうって、思ってしまったのだ。
性別の違いが生む、溝。
幼馴染みの二人に感じた、初めての溝だった。

視界がぼやける。
なんでわたしはこうなんだろう。



"なんもできない奴なんていないんだよ"


涙が喉までせりあがってくるのを必死で抑えると、悟ったような表情で凛は笑ってわたしの頭を優しく叩いた。
凛のくせに。振り払って、ビート版を投げつける。
かわいくないわたしの抵抗に、御子柴部長は豪快に笑った。

大会が近づくにつれて渦巻いていた言い知れない不安も、凛の言葉ですっきりと落ち着いてしまった。
わたしには見えない世界があることも、仕方のないことだ。
わたしだって、もう子どもじゃないのだ。


「久遠」


聞きなれた声に振り返る。
タンクトップ姿の凛が、少し眉を寄せてそこに居た。


「女がこんな時間に一人でうろついてんな。ここが男子寮だってこと忘れてんのか」
「え・・・凛わたしを襲おうと、」
「なわけねーだろ!」


ただジュースを買いにきただけなのに。
出てきた缶ジュースを手に取って、椅子に腰掛ける。
ぶつぶつ言いながら隣に座った凛との距離は、先日よりも少し近い。

大会を明日に控えた凛の表情は、どことなく思いつめているようだった。
遙との勝負にこだわる彼の意図は、なんとなくだけど理解している。


「・・・明日、」
「うん」
「あいつに勝ったら」
「・・・?」
「・・・・・なんでもねぇ」
「なにそれ」


無意味に髪の毛をかきまぜられた。

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