四人で勝ち取ったトロフィーにおめでとうの言葉一つかけられなかったのは、わたしの中にある醜い感情のせいだ。
自分はなにもできないくせに、可愛らしく優勝を祝ってあげることもできない。
普段から遙や真琴にお世話になりっぱなしなのに、なにも返せない自分がなによりも嫌いだった。


『久遠!』


追いかけて、わたしの手首を握った凛を振り返ることもできないまま、わたしは俯いた。
どんな顔をしていいのかわからないし、口にした言葉を取り消すことなんて不器用なわたしには不可能な話だったからだ。
そんなわたしに、凛は言ったのだ。


『オレは、お前のその感情、間違ってないと思う』
『・・・え・・・』
『だって、悔しいってことだろ?オレたちと同じ景色を見たいってことは、向上心があるってことじゃん』
『・・・っ、まつおかく、』
『凛、だ!オレもオーストラリアでがんばるから、久遠も、ってオイ!?なんで泣くんだよ!』


耐え切れずあふれた涙を、慌てながらぬぐってくれた凛。
救われた気がした。
がんばろうって思えた。
たとえ同じ景色が見れなくても、努力すればきっと何か見えるはずだ。

優秀な幼馴染みに、密かに感じていた劣等感や負い目もなくなった。
わたしはわたしでいいと思えるようになった。
だから、


『、凛?』


小学六年生の冬休み。
スイミングクラブの建物から飛び出してきた凛に驚きと喜びを感じた。
長い間会えなくて、連絡もなかったのだ。
ランドセルを背負い直して駆け出す。
わたしに気づいた凛は、ハッとしたような顔でそっぽを向いた。何かおかしい。
たった二ヶ月の仲ではあったけれど、昔の凛じゃないことだけはわかった。


『凛?どうしたの?』
『・・・なんでもないよ』
『だ、・・・って、なんか、泣きそうだよ』
『なんでもないって!』


伸ばした手は振り払われた。
ショックよりもなによりも、驚きの方が大きくて、走っていく彼の姿をただ見つめることしかできなかった。

それから数日後、遙は競泳を辞めた。


『はるちゃん、なんで水泳辞めちゃったの?あんなに速く泳げるのに!』


わたしには見えない景色を、見ることができて、楽しそうにしてたのに、


『なんで・・・、』
『・・・意味が、なくなったから』
『意味ってなに?なんで教えてくれないの?』
『もういいだろ、』
『よくない!遙の馬鹿!!』


悔しかった。
わたしにはないものを持ってる遙が、諦めるのがなによりも悔しかった。


『遙が水泳部辞めるって、まこちゃんはなんで止めなかったの?』


同じ中学に入ってからも、ただの水が好きな少年に戻ってしまった遙を見ているのは苦しかった。
真琴は困ったように眉尻を下げて曖昧に笑うだけだった。


『それが、聞いてもなにも教えてくれなくて』
『まこちゃ、っ真琴はそれでもいいの』
『・・・遙には遙なりの、何かがあるんだよ、きっと』
『・・・意味わかんない』


男の子の事情は、いつだってわからないことばかりだ。
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